嘯く子供
「言ったじゃない」
「さぁ?知らないな」
「いい加減にしてよ」
興味が無さそうに詩集を片手にとぼける横顔に腹が立つ。
私は幸村の机を盛大に叩くと、目を細めた幸村が静かに顔を上げた。
「…やっとこっち見た」
「何、見て欲しかったの」
「人と話すときは目を見て話しなさいって教わらなかったの?」
「あぁ、お前って人だったの。てっきり便利屋か何かかと思っていたよ」
幸村は私の手の中にある薄ピンクの封筒を指差しながら盛大に溜め息を吐いた。
こんな男のどこがいいの。そう思いながらそれらを幸村の目の前に突き出す。
汚いものでも掴むように親指と人差し指だけで受け取る幸村を、頬を染めて私にこれを託した彼女に見せてやりたい。
「で?なんで昨日の呼び出し行かなかったの」
「俺はそいつと約束なんてしてないけど」
「私が伝えたでしょ?」
「聞いてないし。お前の勘違いなんじゃないの」
「ふざけないでよ」
「ふざけてるのはどっちだよ」
中身も見ずに封筒を裂く幸村にぴくりと口の端が動く。
それでも幸村は気にする事無く縦に横にと裂いていく。
可愛らしい丸っこい字で綴られた便箋だったもの、の残骸が花びらのように増え続ける封筒の残骸と混ざっている。
「…返事はどうするの」
「見てないから分かんないし」
「じゃあ見れば良かったじゃない。読むだけでもしてあげれば良かったのに」
「自分で想いも伝えられないような女は要らないよ」
「は?でも幸村、昔、佐田島と付き合ったじゃない」
「馬鹿すぎて反吐が出たね。っていうか、お前はいつまでこんなことするの?」
窓を開けた幸村が残骸を窓から投げ捨てる。
それらは重力に従ってパラパラと下のコンクリートに降り注ぐ。
コンクリートに咲くピンクと白の花びらを見ていた幸村は目を伏せた。
私は地面を見ながらあの花に水を盛大に掛けてやりたくなった。
きっと、愛を綴った文章が溶けていく様は美しい。
「ねぇ、俺はお前が嫌いだよ」
「…じゃあ私が渡しても逆効果だったんだね」
「さっさと分かれよ。ほんとお前嫌い」
「あっそ、」
私だって、きらい。
そう口に出すと、幸村はへぇ、と今日初めての楽しそうな声をあげた。
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