「え、なまえちゃんって泳げなかったの?」
私の前の席の渚くんはよく私に話しかけてくれる。その内容はというと殆どがたわいもない小さな話ばかりで、話すことがあまり得意じゃない私も渚くんとの話はとても楽しかった。
「うん…恥ずかしいけど…。昔から水が苦手で…」
最近水泳部を作ったという渚くんの話から私は泳げないんだよね、という何気なく言った一言に渚くんは反応してくれた。
「えー?水の中すごく気持ち良いのにー!」
「だ、だって!冷たいし深いし足つかないし、何より目も開けられないんだもん…!」
「…あははっ!なんかなまえちゃんらしいといえばなまえちゃんらしいかも!」
それって馬鹿にされてるのかな…。
それでも事実には変わりないし自分でも情けないなあと思っていたことだから何も言えない。
「…じゃあさ、今度2人で海行かない?」
「えっ…!う、み……?」
「そう、海!プールは深いかもしれないけどさ、海の浅いところなら大丈夫でしょ?」
「そう、だけど…」
渚くんの突然の誘いにびっくりして頭が回らない。渚くんとどこかへ行けるなんて夢みたいですごく嬉しいけど、なんで私なんかと2人で海へ…?
「わたしと、でいいの…?」
「…なまえちゃんだから、いいんだよ?」
首を少し傾けて言った渚くんに頬が赤くなる。淡い期待が私の胸を急かしてくる。
「で、でもわたし本当に水苦手だし、前に海行ったとき溺れかけちゃったし、渚くんの迷惑になっちゃうかも…」
「……そのときは、俺が助けるから」
だから、安心してね
小さく呟かれたその言葉に大きく胸が高鳴った。
渚くんに握られた左手が、熱い。
(なまえちゃんの今の顔、誰にも見せたくないなあ…)
いざというときの話
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