泣いている







彼女はまだ24歳で、編集としても新米なのだから色々複雑な思いを抱いてしまうことはあるはずだ。



毎日一生懸命に働き頑張ってる姿を見かける事はしばしばある。





しかし俺は君の班長じゃない。
即ち俺の部下ではないから彼女と会話することは殆どない。



実際に社内で挨拶を交わす程度しか無いのだ。






そんな彼女が誰もいない休憩所で涙を流している。


俺は正直なところ困ってしまった。



俺も休憩をしようとここに来たわけであり、
休憩所に来る即ち疲れているのだ。



余り話さない人に気を使うのは社会人としたら自然な行為な訳で
そんな気を回すほど面倒な事は無い。







しかし、仮にも俺は先輩だ。



ましてや弱ってる女の子放って置くほど無責任な人間では無い。



俺は彼女に声をかける事に決めた。









「…みょうじさん、どうしたの」






「…え、よ、しだ…さん?」







俺のいる方に振り向いた彼女は俺に声をかけられた事にびっくりしていたようだった。





「何かあったの?」





「え、えと…吉田さん何で」




「女の子が泣いてちゃ声掛けない男はいないだろ」






俺が彼女の隣に座ると彼女は一瞬戸惑いを見せた。


初めて彼女を真近で見たが、編集なんていうハードな仕事が本当にできるのかと思うくらい小さな身体で、大きな瞳に涙が溜まっている姿には少し可愛いと思ってしまった。






「あ…なんかすみません…」





彼女はとても申し訳なさそうに身体を縮める。



「今はそんなこと関係ない。…何かあったなら聞くから。嫌なら君が落ち着くまでそばに居る」







「…あ、あの…とても私事なんですけど…


彼氏に浮気されちゃったんです。」






彼女は涙声で言った。





「私が仕事で忙しい所為で彼氏に飽きられてしまって…
私まだまだ編集として未熟ですし、慣れない事ばかりで仕事に時間が掛かりすぎて残業ばかりでろくに彼氏と話す事も無くなってしまって…。そんな私と接しない間彼氏は他の子と居たみたいで…つい別れを切り出したらあっさりOKされて…。全部私がいけないんです。でも4年間も一緒だったから思い出したら涙が止まらなくなっちゃったんです…」







彼女はゆっくり一言一言はっきりと話してくれた。

今にも泣きそうな彼女にはらはらしながら彼女の精一杯の言葉に耳を傾けた。





「そうか…辛かっただろう。」




「違うんです…っ…私がいけないんです…」





「…みょうじさんは悪くはない。みょうじさんが仕事を一生懸命なのはこの会社にいる皆が分かっているよ。少なくとも俺はね。
君の彼氏が君への理解が無かっただけだ。」





何故だろうか。
気を使うどころか恰も彼女のことをよく知っているような口ぶりをしてしまった。


彼女のことを見ていると、何というか守ってやりたくなってしまう。







「…何か、吉田さんとこうやって話すのは初めてですね」





「ん、まあそうだな」






「吉田さんと話せて良かったです!お陰で忘れられる気がします…


…ありがとうございます!」





「っ…!」






彼女は俺の方を向き優しく微笑んだ。



こんなに可愛い彼女を手放した彼氏はどうかしている。





「なので私も吉田さんみたいにお仕事頑張りますね!」




「…ああ」





俺は思わず彼女の頭を撫でてしまった。





「吉田…さん?」






「…俺も応援してる」




「…こ、子供扱いしないで下さい!」






「悪い、みょうじさんが可愛くてつい、な」




「!!」









とうめい消しゴム




悲しみなんて俺が消してやる





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お題は「淡水魚」様より






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