「あ、」
何でもない休日の昼下がり、 私の鼻はふわふわ甘口カレーの匂いを感じた。
「ん、なに?」
「カレーの匂いする」
「あー…ほんとだ。
…あ、カレー食べたくなってきた」
「よし、じゃあ今日はカレー作ろ!雄二郎も一緒に、ね?」
「お、いいなそれ」
「そうと決まったら早く買いに行こ!」
雄二郎と繋いでる手を少しだけ引っ張ると、雄二郎がさっきよりも強く握り返して近づいた。
「はいはい、そんな急がなくても誰も逃げないよ」
恋人繋ぎができるくらい若いわけじゃないのにちゃっかりしちゃってる雄二郎が何だか可愛く見えた。
*
少し歩くとよく来る近所のスーパーに着く。 いつも一人だから雄二郎と来るのはとても新鮮だ。
私が一つカゴを取ると、 雄二郎がすかさず
「あ、俺カゴ持つよ」
と言ってひょいと私からカゴを奪った。
私は雄二郎のさり気ない優しさがすごく好きだ。
「ねえ、雄二郎は何カレーが好き?」
「チキンカレー」
「私も!じゃあ鳥肉鳥肉…」
「ちょ、なまえ早いから…!」
慌てる必要は全く無いのに何となく足早にお目当ての鳥肉を手に入れると 雄二郎も後ろから慌ててやってきて腕を掴まれた。
「はあ…なまえ危なっかし過ぎ。そんな俺から離れちゃ駄目でしょうが。 迷子になるよ、小さいんだし」
「失礼な! 私はこのスーパーよく来るし迷子になんかならないよう…もう。」
「なまえなら有りうることだから言ってるの。とにかく俺から離れない!」
「もう…子どもじゃないのに…」
そう言われて少し馬鹿にされたみたいで悔しかったけど雄二郎がまた手を握ってくれたから嬉しくなってしまったのは秘密。
「あ、なまえルー買い忘れてるよ」
「あ、本当だ」
「なまえって大事なところで抜けてるよな。普段はそうでもないのに」
「…今日の雄二郎いじわる」
「なまえが可愛いからだよ」
「…もーそんなこと言ったって駄目…あ、ルーこっちにある」
私は沢山のカレーのルーの中からいつも使ってるものを探す。
「あ…あった!…」
しかしそれは位置が高すぎて私じゃ届くか分からない場所にあった。
少し戸惑っていたら
「ん、これで良いの?」
と言って雄二郎が取ってくれた。
雄二郎優しい!
「ありがとうー!雄二郎優しいー」
「さっきまでいじわるって言ってたくせに…」
*
ようやく一通り買い揃えた。
「やっと買えたねー」
「うん、腹減ってきたから早く帰ろ」
スーパーを出た頃にはもう夕方で、近くの公園では学校帰りの子供たちが走り回っていた。
「あ…子供可愛いなあ」
何気なく出た私の一言に雄二郎は何故かびっくりしていた。
「…なまえ子供欲しいの?」
「えっ!あ、あのそういう意味で言ったんじゃ…」
な、何か私気まずくなるようなこと言っちゃった…
しかし雄二郎は私から目を逸らし頬を染めてこう言った。
「…俺は、子供欲しい」
どうしよう
カレー作るつもりだったのに
雄二郎と繋いでる手にいつも以上に力を感じた。
「…雄二郎は、男の子がいい?女の子がいい?」
「え、」
「…やっぱり2人欲しいかな…
…私、頑張るね!」
今まで勝手に色々幸せな想像を巡らせてきた私にはとても嬉しい言葉だった。
雄二郎も私の言葉に凄く嬉しそうな顔をしてくれた。
「…なまえが頑張るなら俺も仕事頑張らないとな」
「男の子は雄二郎に似て優しい子だといいな」
「女の子はなまえに似て可愛い子がいい」
「…そしたら皆でカレー作りたい!」
「それじゃまず俺たちがまともなカレー作らないとな。
なまえは料理も危なっかしいし」
「もう…雄二郎こそちゃんと作ってよね!美味しいの食べたいし」
「…なまえと作れば何でも美味しくなるっつの」
幸せな未来を頭で描きながら 私たちはまた恋人繋ぎで笑いあった。
たとえばあなたとの間に起こるすべてのこと
願わくば幸せなことでありますようにと心の中で呟いた
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お題は「確かに恋だった」様より
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