※悲恋です














きみは、わらわない。


きみは、あのひとだけにほほえむ。



きみは、ぼくのすべて。







「なまえさん!」



「あ…リトさん!」



「今日は晴れてますよね!」



「そうですね…」





出稼ぎは、好きだ。




ロシアさん家みたいに過激じゃないし、
アメリカさんは優しいし、
何より、





なまえさんに会えるから。





最初は本当になんて可愛い人なんだろう、と思ってしまった。



俺はなまえさんの笑顔が大好きだった。
ふんわりしていてちょっとだけ恥じらっているときは殺人級だと思う。



そして優しくて家庭的でちょっとだけ天然ななまえさんを俺はいつのまにか好きになっていた。
いや好きにならないほうがおかしいと思う。




でもそんな小さくも大きい恋心に気付いたときはもう何もかも遅かったんだ。





そもそもなまえさんは何でアメリカさんの家にいる?


何故いつまでもアメリカさんと一緒にいる?



何よりなまえさんは何故俺の前では笑わない?






俺の好きななまえさんの笑顔はいつだってアメリカさんに向けたものだった。








俺は一度だけ、
アメリカさんに聞いたことがあった。




「アメリカさんはなまえさんのどこが好きなんですか?」




最初アメリカさんは
少しびっくりした様子だったけれど、
すぐにいつもの笑顔とは少し違う真剣な笑みで、





「全部、だぞ」








真っすぐなその視線で
全て知ってしまった気がした。






なまえさんの中でのアメリカさんの存在は俺とはどこまでもかけ離れていたんだ。




俺はなまえさんの笑顔とか優しくて家庭的でちょっとだけ天然な、
そんななまえさんが好きだった。





でもアメリカさんはなまえさんの全部を愛している、と言った。









勝てるわけがない。






こんなんじゃなまえさんのあの笑顔が俺に向けられることはないと思った。





けれど欲しかった。




アメリカさんは手に入れた
あの笑顔となまえさんを。

一緒にいればもらえるほどのものではない。



けれど少しでも俺はなまえさんの中で一番に…

アメリカさんに近づきたかった。






「…リトさん?どうかしました?」




「…なまえさんは、すごく素敵ですよね」




「え…そうですか?私はリトさんの方が素敵だと思いますよ」






好きな人にこんなこと言われたら
普通はうれしいはずなのに、
そこに笑顔が無いだけで
こんなにも虚しくなるなんて。




遠くからしか見たことの無いあの笑顔を、
なまえさんにしかできないあの笑顔を。




俺はこんなにも人の笑顔が好きだったかな、と思えるくらいなまえさんに振り向いてほしかった。





「あっ…私アメリカさんの部屋に行くので少し席を外しますね。」



「あ、何か用でもあるんですか?」



「えっと…伝えたいことが、あるんです」






「…じゃあ俺が伝えておきますよ。
俺さっきアメリカさんに呼ばれてたので、代わりに。」




「え…!いいですそんな気を使われなくても…」



「そんな遠慮しないで下さい。俺はなまえさんの役に立ちたいだけなんです」



「でも…!」



「いいですから…ね?」







呼ばれてる、なんて
なまえさんを引き止める口実にすぎなかった。



でもなまえさんだって
伝えたいことがあるなんて嘘でしょう?





好きな人の近くにいたい気持ちは
俺もなまえさんも同じだった。






「…あ、ありがとうございます」






なまえさんは気持ちのこもっていないありがとうと同時に小さな苦笑いを浮かべた。





それが俺に向けてくれた初めての笑顔だった。






苦笑でもいいよ。
ちょっとだけ笑ってくれればぼくは満足。




(きっとそれが最初で最後の笑顔だから、)








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テーマ「人外ファンタジー」
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