※余裕のない三郎
「三郎ってスキンシップ激しいと思ってた、意外」
「意外ってなんだよ雷蔵」
「いや、だっていつも散々なまえちゃんの惚れ気話してるし三郎は僕と違ってはっきりしてるしさ、なんかそういうイメージだったんだけど」
雷蔵と2人で、しかも私の奢りで学生御用達のとあるファミレスに来たのには紛れもない私の理由があって、雷蔵は嫌な顔一つせずにこうして来てくれて話を聞いてくれているわけだ。本当に雷蔵は良い奴だ。
ところで何の話をしているかというとそれは私の最近一番の悩みについてだ。
「それが何というか…自分もぶっちゃけその程度だと思ってたんだが…なまえを目の前にするとどうも上手くいかないんだ」
「うーん…でもだからってもう3ヶ月も経ってるのにいちいち抱きしめるだけで心臓持たないって…。キスなんて到底無理だよ?」
「雷蔵…そんな的確に言われてしまうと流石の私も落ち込む」
そう、 私は彼女であるなまえに未だにキスができていない。それどころか抱きしめることすら心臓持たなくなるくらい色々と限界になる。
自分でもこんな経験は初めてでどうしていいか分からない。私ってこんなキャラだったっけ。でもいざなまえを前にするとびっくりするくらい思考が働かなくなるし聞こえてしまっているのではないかと思うくらい大きく鼓動は響いているしどうしようもなくなってしまうのだ。
「まあ抱きしめるのとか手を繋いだりは少なくともできるわけだし…もう一息じゃないか」
「甘く見るな雷蔵、なまえは思っている以上に小さくて細くて柔らかいんだ。抱きしめている最中も壊してしまうんじゃないかとか考えてしまったりなまえはなまえでぎゅっと俺の胸にしがみついてくるし…とにかく色々目一杯なんだ」
「何か似たようなこと前に何度も聞いたような……まあなまえちゃんもいつまでたっても進展がないと不安になっちゃうんじゃないの?男の三郎が頑張らないと」
「…それはわかってる」
そうだ。やっぱり好きな人にはカッコ良いと思われたい。それは世界中の男に共通する感情だ。 なまえも積極的な方ではないしどちらかといえば恥ずかしがり屋だし(そこが可愛いんだけど)俺が頑張るしかない。
「……まあ少し力抜いてみたら?普段通りしてけば案外さらっと行けるものだと思うよ」
「……雷蔵、色々とすまん」
雷蔵はこう見えて経験豊富なのかもしれないと今日初めて思った。
*
「三郎くん、あそこにいるの竹谷くんかな?」
雷蔵に相談を持ちかけてから一夜が明けた。 朝の気だるい思考のままのらりくらりと時が過ぎ、昼休みがやってきた。 昼休みは毎日なまえと2人で屋上で過ごしている。これは付き合い始めてからずっと続いている習慣だ。まあ私もなまえもそれぞれ部活動で忙しく一緒に帰ることが殆ど出来ないからと唯一2人で過ごすことのできるひと時なのだ。ちなみに屋上の鍵を手に入れることなどは私にかかれば朝飯前だ。
「竹谷くんは久々知くんのクラスとバレーしてるんだね、相変わらず元気だよね!」
「あ、ああ、 そうだな」
「…三郎くん?どうかした?」
「い、いや!別になんでもない…」
確実に昨日のせいだ。 いつも以上になまえのことを意識してしまう。 まだ何もしていないのに視線は無意識になまえの身体に向いていて、微かな甘い香りが鼻を擽る。 駄目だ駄目だ、こうやって考えるだけでも頭がおかしく…
「…三郎くん、なんか今日変だよ…?」
「!!わ、私は別に何も…!」
「…本当…?
……もっと私のこと、頼ってくれてもいいのにな」
「そ、そういうつもりで言ったわけじゃ…!」
何か多大な勘違いをしているのか明らかに落ち込んでいくなまえを必死でフォローしようと声を上げた、がそれと同時に私は無意識になまえの両肩を掴みこれでもかというほどになまえの顔に自身の顔を近づけていたのだ。
「さっ!!さささ三郎くん!ちちちちかっ、い…!!」
「のああああっ!!!わ、悪い!!!つい…!」
慌てて両手を離し距離をあけるとなまえはすっかり真っ赤になっていて、つられて自分も赤くなってしまった。
「あ、えっと…、本当に何ていうか…!」
「さっ、三郎くん!!」
さあどうやって弁解すれば…と言葉を探して当てようとした瞬間なまえは声を上げた。
「…なまえ…??」
「あっ、あの…えっと、その……
…嫌だったわけじゃない…よ…?」
「…え、」
「ちょ、ちょっとびっくりしちゃっただけで…その…本当は……
……三郎くんがあんなに近くにいて、すごくどきどきして、嬉しかった……の…」
だからその、気にしないでね…!!
元々真っ赤だった顔を必死に話すうちにさらに真っ赤に染めたなまえを見て、自分が悩んでいたことが馬鹿らしくなるぐらいごく自然に、気がついたらなまえを腕の中に閉じ込めていた。
「さっ、三郎くん…!」
「……私はもっと、なまえの近くに行きたい。いたい。」
今まで以上に鼓動は高鳴っているのに脳内に残っているものはひとつしかない。周りは何一つ見えない。ただ温かい、彼女の柔らかな感触しか感じられないほどで、
「………三郎、くん」
小さな声でそっと呟きぎゅっと目を瞑った彼女への選択肢なんて最初から一つしかなかったのだ。
世界に403エラー
正直最初の味なんて覚えてないくらいそれは一瞬のようで永遠のようで一瞬だった。
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お題は「不眠症のラベンダー」様より
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