別に見たいと思って見てしまったわけではない。
時間にしたら短いかもしれないが久々になまえに会える日が出来て普段の自分からは想像出来ないぐらい軽い足取りで忍術学園にやってきた。 (もちろん小松田くんに会わぬよう細心の注意を払って) そんなとき、あの光景を目の当たりにしてしまった。
「なまえちゃん、いつも悪いね…」
「いえ!事務員として当然のことですよ。先生こそいつもお疲れ様です」
「ありがとう…なまえちゃんといると何だか癒されるよ。」
「そんな…私でよければいつでも土井先生の力になりますので!」
何故だろう。こんなこと忍術学園の事務員をしているなまえのことだ、人助けをすることなど日常茶飯事のはずだ。
それでもにこやかに他の人と、ましてや土井先生という若い男に接している彼女の姿にふつふつと醜い感情が湧き上がってきた。
仕事でなかなか会えないのは自分の所為だというのにこうも勝手に嫉妬して苛立っている自分の余裕の無さに呆れてしまった。
少しへこんでいたそのとき、
「利吉さん、利吉さん」
「!! なまえ?!」
誰にも見つからないよう細心の注意を払っていたはずなのに何故かさっきまで土井先生と一緒にいたはずのなまえが私の姿に気づいて声をかけてきた。
「…何で私がいると分かったんだ」
「土井先生がさっき教えてくださったんです。利吉さんが来てるから行っておいで、と」
…土井先生には敵わないな全く。
情けない姿を見られていたことに対する恥ずかしさが身体全体を包んでいたが、なまえがその言葉の後に見せた久しぶりに見る笑顔にそんな気持ちは吹っ飛んで自然と頬が緩んだ。
「…久しぶり、です」
「…久しぶりですまないな」
笑顔から一転、少しだけ寂しげな声でそう呟いたなまえにつられて考えるより先に謝罪の言葉が出た。
「…利吉さんは何も悪くないですよ。忙しいのは頑張ってる証拠です。利吉さんが頑張ってると思うと私も嬉しいですし…」
私の謝りに必死でフォローするなまえを見てさらに申し訳ない気持ちが込み上げて来た。
そしてなまえの作り笑いの陰のどこか寂しげな表情が心につき刺さった私はいてもたってもいられず強引に抱きしめてしまった。
「…なまえ!!」
「!!…り、りきちさん…!」
「…本当に、本当に謝りきれないぐらいなまえには寂しい思いをさせていると思う。すまない、だなんてもうなまえには通じないのに、俺は」
「あ、あの利吉さん!そんな謝らないでください!そんな、私の方こそわがままで迷惑ばかり…」
「…俺は自分の所為でなまえとなかなか会えないというのになまえが他の男と話しているところを見ると勝手に嫉妬するような情けない男だ。なまえに釣り合わないような男なんだ。だからなまえが俺を見捨てたとしても俺は何も言えない…」
「利吉さん!」
必死で連ねたまとまりのない言葉たちを突如なまえは私の名前を呼び遮断した。
「…私、利吉さんが毎日来て欲しいとかそんな贅沢なことは考えません。
…ただ毎日、今日利吉さん来るかなってどきどきしながら待ってるのがとっても楽しくて毎日頑張れるんです。 …特に今日のように会えた日なんて私には勿体無いくらい幸せなんです。
…利吉さんには伝わっていなかったでしょうか…?」
微かに震える小さな手、潤んだ大きな瞳に長い睫毛、ふわふわした女らしい髪、火照った身体、
切ない表情で見つめるそんな姿は初めてで、私はしばらく言葉が出なかった。
「…利吉さんに出会えて私、本当に毎日幸せです」
「…私だってそうだ」
「えへへ、今日だけでも利吉さんパワーであと一週間は頑張れます!」
「…そんなに頑張らなくて良い」
「…え…?」
「…み、三日に一回は必ず会いに来る。だからその…もっとお前を幸せにする、から…」
「り、利吉さん!!そ、そんな無理しないで…仕事忙しいのですから私なんかに構わず…」
「そんなこと気にしないでいい。なまえが嫌だとしても俺が行きたい。なまえに沢山会いたい」
「りきち、さん…」
「……いずれは毎日、お前の元に帰る日々を過ごしたい」
「…!! 利吉さん、あ、あの、それって」
「こんな私だが…なまえさえよければこれからもついてきて欲しい」
「…そんなこと、とっくの昔から答えは決まってます」
彼女の普段振りまく笑顔とは少し違う特別な笑顔に愛しさがより込み上げてくる。
なあ、なまえ。
私がもう少しだけ強くなれたそのときには真っ先に君を連れ去って、君を今日の比にならない程幸せにしてやるから、
なまえの全てを私にくれないか。
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お題は「純愛アリス」様より
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