伊作先輩に頼まれて薬草を育て始めた。
保健委員でもない私が何故頼まれたかと言えばきっと私が喜んで引き受けてくれると思ったからだろう。


私は花がとても好きだ。
見てるだけで穏やかな気持ちになれる素敵なものだから。

忍術学園にももっともっと花壇が綺麗な花でいっぱいになればいいのにな。
私も少しずつ育てているけれども中々上手くいかない。そもそも花壇を気にしてくれる人はほとんどと言っていいほどいない。

でもいつか私の育てた花でみんなが笑顔になってくれたら…なんていうささやかな夢があったりして、そんな日を夢見て今日も水やりをしていた。





「よし、此処で最後かな…」




「あれ、みょうじ?」






突然名前を呼ばれてびくっとしながら振り向くとそこには





「竹谷くん!」




同じ学年の竹谷くんがいた。

竹谷くんとは特別仲良しではないけれど何度かお話したことがある。友達だと勝手に思っているけれどもそれは私の思い込みかもしれない。


竹谷くんは花壇の前でしゃがんでる私の隣にやってきた。




「これ、お前が育ててるのか」



「えっ!う、うん!一応学園の花壇は私一人で管理してるようなものだし、」




「…は?!まじで?」





竹谷くんは呆気に取られた顔をした。








「…お前凄いな」



「え、」




「…俺毎日花壇見てるけど、あんな綺麗な花一人で育てるなんて信じられねえ」







わ、わ、




どうしよう、すごく嬉しい。





私は竹谷くんの一言で胸がいっぱいになった。
こんなこと言われたのは初めてで私が夢見ていたことだから感動してしまった。


しかも言ってくれた相手は生物委員の竹谷くんだから余計に。
面倒見が良くて生物を育てるのがとっても上手い竹谷くんにそう思ってもらえたことが純粋に嬉しかった。






「あ、ありがとう…!そう言ってもらえるの、すごく嬉しい!」





「!…お、おう」






どうしよう、頬が緩んで仕方がない。

頭がお花畑のまま竹谷くんにお礼を言った。
変な人って思われてしまったかもしれない。







「こ、この花は何ていうんだ?」




そういって竹谷くんが刺したのは目の前の花壇に咲いている小さな花。




「これはクチナシだよ。伊作先輩に頼まれて育ててるの」



「伊作先輩に?」



「うん。クチナシは漢方薬になるの」




「へえ…こんな綺麗な花咲かせてるのに薬になるんだ」





「私も最初びっくりしたよ、花は本当に凄いなって思う!」





「…本当にお前って花が好きなんだな」




「うん、 大好きだよ!」





竹谷くんと話すのは楽しかった。

それは今に思ったことじゃなくて初めて話したときから。
竹谷くんともっともっとお話したいな、なんて密かに思っていたものだからとても心が満たされた気分になった。






「…反則だろそれ」



「えっ?」




「なっ  なんでもねえ!」





何時の間にか隣で私と同じようにしゃがんでくれていた竹谷くんが顔をそむけてしまった。
もしかして私何かしちゃったかも…

でもそんな心配はいらなかったみたいで竹谷くんはまた普通に話しかけてくれた。






「…でも本当に綺麗な花だな」






「そうだよねっ……あ、竹谷くん花言葉知ってる?」




「花言葉?」





「そう!花って一つ一つメッセージが込められてるんだよ。四つ葉は幸福…とか」




「へえ…四つ葉なら俺でも分かるかも」




「大体が人の気持ち表す言葉が多いんだ。あと種類は同じでも花の色で言葉が全く違ったりするの」






私が色々と花について語ってしまっているときも竹谷くんは真剣に耳を傾けてくれた。
竹谷くんは本当に良い人だなあ…






「竹谷くんありがとう…」




「えっ?」




「あ、その!私ばっかり話しちゃってるのに凄いしっかり聞いてくれて…!」








「いや!その…


別に俺が聞きたいから聞いてるのであってそんなお前が申し訳なく思う必要なんて全くねえから、な!」




「…!」





こんなこと言ってくれた人は初めてだ。
竹谷くんの言葉に胸が熱くなる。







「…それと、さ」



「…え…?」






「…お、俺は花言葉とかよく知らねえからさ、そのなんていうか…キザなことはできねえ。
…だからちゃんと言葉で伝える。






…初めて話したときからお前が好きだ」







真っ直ぐな目で
真っ直ぐな声で
そんな言葉を言われてしまったら







「え、っと……それって」





「だっ、だから…そのまんまの意味だ!


…初対面のときからその、気になってたんだけどさ、
今日そうやって楽しそうに花を育ててるみょうじを見て…もっと好きになった」







そこにいるのはいつもの竹谷くんじゃなくて、顔を真っ赤にしてそう言ってくれるものだから私まで赤くなってしまった。





…その言葉に甘えてしまっていいんですか?
期待してもいいのですか?







「…竹谷くん、クチナシの花言葉はね
"私は幸せです"っていうんだ」






「………!」







「…竹谷くん、



こんな私でよければ、付き合ってください…!」







その言葉を放ったときにはもう私は竹谷くんの腕の中にいた。






咲かない花言葉


(約束する。今日の比じゃねえくらいお前のことを幸せにしてやる)





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お題は「brooch」様より

生物委員会は花には全く関与してないとでも思っていただければ…




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