君が仕事上沢山の人と接し会話しなくてはならないのは前々から分かっていたわけで、

もう少し言ってしまえばその沢山の人に毎日可愛らしい笑顔を振りまいていることに普通違和感など感じないのだ。

例えその相手が誰であろうと。なまえさんに好意を寄せている者であろうと誰だって。





「土井先生、今日もお疲れ様でした」





なまえさんはいつも振りまいてる笑顔を私に向けた。
可愛い、本当に可愛い。

少し加速し始める鼓動を気にしながら私はもやもやした気持ちを忘れることができないまま彼女に目線を送る。





「ありがとう。なまえさんもお疲れ様」



「ありがとうございます!今日は来客者がいつもより多くてちょっと疲れちゃいました」





「そうでしたか

…まあ利吉くんも来てたみたいですしね」




「はい、そうなんです!随分久しぶりに利吉さんにお会いしました」





自分は何て余裕のない男なんだろうか。
自分以外の男の話をしているときにいつもの笑顔を見せただけでこんなにもどす黒い感情が心を埋めつくしてしまうなんて。




「利吉さんと授業が終わるまでの間お話するのがとても楽しいんです!」





ああ、駄目だ駄目だ。

頭がガツンと金盥が落ちたような衝撃で理性と本能の区別が付かなくなっていく。


彼女はどうしてそんな笑顔をするのだ。
私に、私だけに向けてくれれば良い。私が笑顔にしてあげられればいい。
だから私のことだけ見ていてほしいんだ。







「…土井、先生?」





彼女の微かな声で気がつくと私は壁に手をつき彼女を廊下の壁に追い詰めていた。

状況を理解した途端に急に自分のしてしまった事への後悔と焦りから手を慌てて壁から離し、一歩後ずさりしてしまった。






「すっ、すみません!!」




「いっ、いえっ!ど、土井先生どうかなさいましたか…?」





大人の女性としては少し小柄な体型の彼女がこんな近くで私の事を見ているのだから必然的に上目遣いになってしまうわけで、更に鼓動は加速していく。


ああそんな心配そうな目で私を見つめないでくれ。君をどうにかしてしまいそうだ。







「…私ももっと、なまえさんと話がしたいです」





「…え!」





つい口に出た言葉に後悔し恥ずかしさでこのまま去ってしまいたいくらいだったが、少し吃驚した目をしたなまえさんはこう言ってのけたのだ。









「…はい!是非今度一緒に食事でも」








その時の彼女の笑顔はいつもよりほんの少し輝きが増して見えたことが自惚れではないことを心の中でそっと願った。






世界中を愛したなら、不安までも愛せるだろうか



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お題は「確かに恋だった」様より





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