「長太郎!悪いんだけど買い出し行ってきてくれないか?
遅くにごめんな!ちょっと手が空いてなくて…」









明日はここ、
氷帝学園の文化祭が行われる。


俺は実行委員としてクラスの企画や前夜祭後夜祭の準備などを担当していて部活の大会が終わっても変わらないくらい忙しい日々を過ごしてきた。


しかし正直自分でもここまではかなり順調だと思ってる。




そんな中クラスの準備も大詰めで、俺は友達から受けた仕事を笑顔一つで了承した。



クラスのみんなが忙しそうに準備を進めている中合間に見せる輝いた表情を見て俺はやっぱりこういうの好きだなと実感する。







下駄箱の鍵を閉め靴を履き替えると自然と足早になった。




俺が急がないとみんなにも迷惑だよな。




そう心で呟きいつもより早めに向おうと思った矢先、中庭の木陰に人陰を見つけた。


こんな時間に中庭にいる人は珍しい。



気になって近づいてみると、それは予想もしていなかったあの人で







「…みょうじさん」






みょうじさんは俺と同じ実行委員で、
この文化祭の中心で活動している先輩方に交じって活動している人だ。



俺が見かける度に笑顔で明るく小さな身体で何事も器用にしっかりこなしていく彼女に自然と見ているだけでこっちも笑顔になってしまうようなそんな人だった。






そんなみょうじさんが木陰で微睡んでるなんて。





左手には文化祭の書類、右手は地面に触れてはいるが近くにピンクのシャープペンシルが転がっているの見て推測するに恐らく仕事中に疲れて眠ってしまったのだろう。






「…そんなに頑張ってるから…疲れるのも無理ないな」






心臓の音が加速していくのが分かる。




みょうじさんをこんなに近くで見たのは初めてで、
しかも二人きりで相手はこんなにも無防備で…



考えれば考えるほど頭がくらくらする。



流石に押し倒すほど理性は脆くないし、だからといって放っておけるわけもない。





「…はぁ…」





思わず溜息をつくとさあっと優しい風が吹く。


その風は彼女のさらさらした長い髪を静かに揺らした。






「…綺麗だな」






ぼーっとする頭の中、俺は彼女の髪の毛を無意識に一房手にとっていた。




みょうじさんの髪は見た目以上にさらさらで、すぐ手から逃げてしまいそうなくらいだった。




それが何となく寂しくて、
彼女の髪に顔を近づけて、







口づけした。











「…」





顔をゆっくり離すと同時にまたさあっと風が吹き、彼女の髪の毛は俺の手から逃げていった。








「…ん、…」





彼女が声を発した途端頭の回転が元に戻り、気づかれたかと内心焦ったがどうやらまだ起きそうにないらしい。








再び微睡んでる彼女に思わず笑みが零れた。







…このまま時が止まってしまえばいいのに。





そんな願いは届くはずもなく、俺は用事があったことを思い出す。





「…っと、行かなきゃ、」




急いで立ち上がると足元に彼女がいたことを再確認し静かに一歩踏み出した。








「…次会ったときは、話せますように」







きっと文化祭を終えて落ち着いたら…かな。






彼女のことだから文化祭当日は今まで以上に頑張るだろう。

 




だから
それまでのこの一時だけでも
おやすみなさい。









摘み取るなんてことはまだしない

今はペチュニアを見ていたいんだ。








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ペチュニアの花言葉は
「あなたといると心が穏やかになります」






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