「あの、蔵…」
「ん?どしたん、」
「動けないんだけど…」
「そら抱きしめとるからな」
「でももう1時間くらいずっとその…こうだから…」
蔵の家にやってきてからもう随分経ってるはずなのに何故か今の今まで後ろからがっちりと抱きしめられたまま一つも身動きが取れてない。おまけに会話という会話も殆ど交わせてない。
嫌って訳じゃないけれど、蔵が何したいのかが全く読めないままで思わず蔵を呼んだのはいいけれど…
「…なまえは俺に抱きしめられるの嫌なん?」
「えっと…そういうわけじゃないんだけど…」
「ならええやん」
「え、え、ちょっと蔵…」
そういって蔵はさらに強く抱きしめてきて心に余計もやもやが残る。いつもなら嬉しい気持ちも確実に薄れてしまってる。
…だって今日は蔵の一年に一度の特別な日なのに。
「…はあ」
「……よし、なまえ!今度はなまえの番や」
「……へ?」
急にぱっと私の身体を離したかと思うと訳の分からないことを言った。
「ほら、思いっきり甘えてくれてええんやで?」
「…何で私が蔵に甘えるの?今日は私が蔵に尽くすんだよ…?」
「さっき十分エネルギー貰ったからええねん。だから今度はなまえからきて欲しいんや」
「そんな……今日は蔵の特別な日だよ。私より蔵に幸せな気持ちになってほしい。だから蔵こそ私にできることあったら…」
「……もう十分や。
最近なまえと二人でゆっくりする機会なかったし、休日に…ましてや俺の誕生日にこうしていられるだけで俺には最高のプレゼントなんやで?」
ありがとうな。
そういって向き合ったままそっと口づけをした蔵に私は未だに罪悪感に近いものが残っていて上手くキスが受け止められずにいた。
蔵は優しすぎるんだよ。 だって私だって蔵に触れたいと思ってたしキスだってしたかったのにこんな日まで私ばっかり満足しちゃっていいのかな。
「……そんな難しい顔せんでもなまえは笑ってるのが一番かわええよ。
……それと俺は一切気使うてないからな」
「ええっ!!なななんでそのこと…」
「なまえは顔に出るタイプやからなあ…」
「……あの、それほんとに?」
「せやで」
「ほんとにほんとに?」
「こんな嘘ついてどないするん、」
「だって蔵は優しいから…!」
「…そう思っとるなまえの方が数倍優しいええ子やで」
「…!」
私はこんな人の彼女でいいのかな。
思わず出てきた涙に慌てて手を覆おうとするとその前に蔵が優しく自らの指で拭き取ってくれた。
あとで絶対にケーキ作ろう。 そして夜ご飯は蔵の好きなチーズリゾット作っていっぱいいっぱい抱きしめてこれ以上にないくらい幸せな気持ちになってくれるように頑張らないと!
「…んーでもなあ、俺に言わなきゃならん大事なこと忘れてへん?」
「あっ……!!!」
偉大なる愛に犯されて
(蔵っ!お誕生日おめでとう!!)
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お題は「brooch」様より 間に合わなくてごめんなさい白石くん。
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