悲観的1121
11月21日
それは普通の人にとっては何気ない1日で、ただいつも通り過ぎていくだけの日だろう。
11月21日
それはオレ、高尾和也の誕生日。
家族からクラスメートから部の仲間、先輩から後輩から
「誕生日おめでとう」
と祝福される日。
けどオレは
「ありがとう」
とお礼は言うけど、本当に心から誕生日をむかえることを「嬉しい」などと思えなかった。
(なぜかって?)
そりゃ誕生日をむかえるということは、また1つ年をとるということじゃん。
つまり誕生日をむかえるということは「大人になる」と同時に、「死」へのカウントダウンが始まっていることじゃね?
小学生のときまではそんなん考えなかったけど……こう考えてしまうオレは大人になったのか、それとも厨二臭いのかよくわかんねーけど。
とにかくオレにとっては誕生日は特別なものなんかじゃないんだ。
***
「高尾くん、誕生日おめでとう」
「え?」
ふと言われた一言。
思わずそんな反応をしてしまう。
すると相手は
「えと、今日高尾くんの誕生日だからお祝いしたくて……」
と言い始めた。
(ああ、そうか)
油断していた。今日はオレの誕生日だった。
自分のことなのに忘れてしまう、自分がいた。
「あ、あのねっ!!それでケーキ焼いてきたのっ、よかったら貰って!!」
一応形だけでも「ありがとう」と言うつもりだった。
けど目の前に立っている女子はオレの話も聞かずに、箱を押しつけると「じゃあねっ」と走り去っていった。
「なんだ、あれ?」
一方的に話しかけ、一方的に自分の感情を伝え、一方的に押しつけて。
あの女子は自分の都合で何をしたかったんだろう。何であんなに顔を赤くして、話しかけてきたんだろう。
ガサリと彼女から押しつけられたものが音をたてる。
よくよく見てみると、赤いリボンでラッピングされたプレゼントだった。
それを見て余計に気分が落ち込む。
――ああ、また「死」へと近づいていっているんだ
そんな現実を突きつけられている気がして。
それから今日1日は大変だった。
まずは教室。
「おはよう」
と挨拶もそこそこにいたるところで、
「高尾ー、誕生日おめでとー!!」
なんて言われた。
あとは部活。
先輩たちは笑顔で祝福してくれたし(誕生日プレゼントとして練習メニューが倍となったりしたけど)、真ちゃんなんか
「た、高尾!!誕生日…おめでとう…」
と顔を真っ赤にしながら言っていた(あとで「真ちゃん、女子みてえ」とからかったら「う、うるさいのだよ!!」という反応で余計におもしろかった)。
どんな人に祝ってもらっても愛想笑いを浮かべながら、
「おー、サンキュー」
と負の感情を隠して、自分の気持ちに嘘をついてお礼を言う。
それが気持ち悪くてしょうがなかった。
思いもしないことを平気で嘘が言える、愛想笑いをするオレ自身が。
「はあーっ」
日が沈んでいく。
1日が終わる。オレの誕生日が終わる。
「疲れた」としか言いようがない1日だった。
嘘を吐き、愛想笑いをし、なんでこんなことをしてるんだ。
ため息をつき、公園に寄りベンチに腰掛ける。
真ちゃんから誕生日プレゼントとしてもらった、おしるこを飲もうと缶をあけた。
「あっま!!」
甘い。甘すぎる。
真ちゃん、なんでこんなの普通に飲めるんだ……!?
甘すぎるじゃん、これ!!
てかこれ……おしるこなのにになんで、「はちみつ風味」とか書いてんだ?
は?いや、マジ、どうなってんだよ。
たしか……これを渡すときに真ちゃん、
「高尾、微妙だからこれをくれてやるのだよ」
と真っ青な顔をしてたような……。
え、ヤバくね!?
死亡フラグ、たったんじゃ……
「なにやってんの、高尾」
「え、あ……」
突き刺さる冷たい目線と声。
クラスメートの名字だった。
「いや、なにって……自己嫌悪?」
「へー、高尾にもそんなんあるんだ。
てかなんで疑問系なの、あとそのおしるこはどうしたの」
「いや、なんとなく。
あ、真ちゃんから貰った」
「真ちゃん……って緑間のこと?」
「そうそう。誕生日プレゼントなのだよとかなんとか貰った」
名字はオレから缶を奪いとると、「はちみつ風味ねぇ……」と淡々と読みあげた。
「ふーん、アンタ、今日、誕生日なんだ」
ぶっちゃけ言うと名字は淡泊なほうだ。
クラスで人に関わっているとこなんて、ほとんど見たことない。
噂では彼女は人というものに興味がわかなない、というより興味がないそうだ。
そんな彼女がオレのことを聞いてくる。
そのことには正直、驚いた。
「そうそう」
「へー。にしては浮かない顔じゃん」
「いや、オレ、誕生日が嫌いで」
「どうして?」
自分でも何を話しているのだろうと思った。
なんで、こんなことを今まであまり話したことのない彼女に言っているんだろうと思った。
気がついたら全てを話していた。
誕生日が嫌なこと。
誕生日は嬉しいものじゃなくて、「死」へのカウントダウンとしか思えないこと。
愛想笑いばかりする自分のこと。
嘘を吐いてばかりの自分が嫌なこと。
全部、全部。
話してしまっていた。醜い感情をさらけ出してしまっていた。
その間も名字は静かに話を聞いていた。
その姿に目の奥が熱くなった。
「私は高尾じゃないから」
話を全て聞き終わった名字はボソリと言った。
「私は高尾じゃないから、高尾のその感情なんて理解できないし。理解しようなんて思えない」
ヒュウウと風が吹く。
寒くなってきた。冬の風だ。
「高尾が誕生日が嫌な理由も、愛想笑いや嘘だって私には関係ないことだもん」
そうだ。彼女の言うとおりだ。
他人である彼女に関係なんてないのにオレは、なんで告白してしまったんだよ。
そう考えて自己嫌悪にはしる。
オレの悪いクセ。
「でも」
「私は高尾のこと、嫌いじゃない」
「どんな高尾でも高尾だと思えるから」
「つらいことがあれば全部吐き出しちゃえばいい」
「少なくとも私は、」
高尾が生まれてきてくれて、同じクラスで過ごせて嬉しい――
「じゃ、明日学校で」
「え、はぁ……」
「あ、そうだ。これあげる」
呆然としているオレに名字は何かを投げる。
空中で掴んだそれは、
「まいう棒キムチ納豆味?」
キムチ納豆味?なんだ、それ!!
せめてキムチか、納豆どちらか1つにすればいいじゃん!!
「貰ったけどいらないから。私、納豆嫌いだし」
「いや、それは違うんじゃね?」
「じゃ」
そう言って去っていく名字。
見送るしかないオレ。
手にはまいう棒(キムチ納豆味)。
吹く風はとても肌寒くて。真冬ともいっても言いくらいで。
けれど満たされた気持ちでいる。
最悪な日のはずなのに。死へと近づいてるはずなのに。
***
11月21日
それは普通の人にとっては何気ない1日で、ただいつも通り過ぎていくだけの日だろう。
11月21日
それはオレ、高尾和也の誕生日。
家族からクラスメートから部の仲間、先輩から後輩から
「誕生日おめでとう」
と祝福される日。
けどオレは
「ありがとう」
とお礼は言うけど、本当に心から誕生日をむかえることを「嬉しい」などと思えなかった。
(なぜかって?)
そりゃ誕生日をむかえるということは、また1つ年をとるということじゃん。
つまり誕生日をむかえるということは、また1つ年をとるということじゃん。
つまり誕生日をむかえるということは「大人になる」と同時に、「死」へのカウントダウンが始まっていることじゃね?
小学生のときまではそんなん考えなかったけど……こう考えてしまうオレは大人になったのか、それとも厨二臭いのかよくわかんねーけど。
とにかくオレにとっては誕生日は特別なものなんかじゃないんだ。
(けれど)
今なら「違う」と言える。
誕生日は最悪だ。死へと近づいていくから。
けれど
「生まれてきてくれて嬉しい」
と言ってくれる人がいる。
なんだかんだ言ってバカ騒ぎできるクラスと、家族みたいな先輩と、変人でワガママなエース様と。
生きている、生きていくそれだけで楽しい毎日を送れる。
それだけでもう充分じゃん。
そう気がつかせてくれた名字に感謝だなー、と思った11月21日。
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ホークアイ生誕祭企画にて提出しました。
無駄に長くて申し訳ない…。
初の高尾夢でしたが楽しかったです♪
主催の苺さん、ありがとうございました!!