01

 何処で強盗事件が起きたって、海で船が沈没したって、誰がどう思ったって私にとってはあくまで他人事であって、上辺同情だけして終わり。特にどうとも思わなかった。私はそんな薄情で、非道徳的な人間だったのだ。
 治安が維持された先進国である日本で平和に守られて暮らしている市民では、むしろ心から深く傷つき悲しむ人の方が少ないと言えるだろう。誰しも口に出さないだけでしっかりわかっていることなのだから、取り立て話題にする必要も、今日がさえやってこなければ無かった。そもそもする気にもならなかっただろう。ならば何故する必要のなかった自論を並べたのか、随分と簡単な話だ。テレビ画面に映し出された被害者の写真を目にしても、加害者の犯行内容を耳に入れても、平然としていられたのは全てが他人事だったから。なら他人事ではなくなって、今度ニューズ番組で騒ぎ立てられるのが自分になるのだとしたら?それは被害者として、あるいは加害者として。
 
 突如ミニマムという力を手に入れ、代償として支払った対価は私のとってあまりにも大きすぎたのだ。それは望まずして得た能力と、孤立と、絶望。力を欲する者など世界中にあふれかえっているというのに、何故私だったのかはわからない。だた気が付いたらこの手に握りしめていた。違和感は全くない。自分の体のように自然に働き、あたかも生まれ落ちたその瞬間から備え付けられていたもののように、私の一部をミニマムは演じきっていた。
 今日の私と昨日の私では、肉体的にも社会的な観点からも同じ私ではなかった。気が付いた時にはもう手遅れで、残像すらも掴みとることができずに、一般人からミニマムホルダーへとなった。それが進化であるのか退化であるのか、判断することはできない。それを祝福し向かい入れるべきなのか、災いとして拒絶するべきなのかすら選択の余地は与えられずして、知らない世界に投げ込まれたのだ。

 徐々に増えて行ったミニマムホルダーが絡んでいる騒動の数々は、連日テレビにて報道されることになる。朝の習慣となったニュース番組のチェックの際、必ず目にすると、こう思うのだ。...これが私でなくてよかった、と。映し出されるのは凶悪な顔をした大男だったり、いかにも健全そうな学生であったり。その人達の中には能力に惑わされて罪を犯してしまったものも少なくない筈だ。もし力を手に入れることがなく、凡人として世の中を上手くわたっていけたのだとしたら、こんな風にテレビに顔写真が上がることも、私に安堵のため息を漏らさせることもなかったというのに。
 でも容易に想像ができるのだ。次の朝になると私は、いつも通りのリビングでニュースをチェックしたり、トーストをかじったりできなくなる。冷たい牢獄の中で一人たたずんでいる私を、テレビは大々的に報道し、今の私と同じくテレビをつけている人々に同情や憎悪の目を向けられるのだ。

 そして今日のニュースはこの間横浜で起きた大規模な事件についてだった。一人の少年が病院で死んだらしい。体には数か所、銃撃された跡があったと。写真にはにっと楽しそうに笑い、カラフルな服装の上にに黄色いお洒落なヘッドフォンを掛けた少年が映っていた。初めて目にする顔だというのに、何処か好感がもて、第一印象は私の中でかなり良かった。
 また思う。この男との子に手を下したのが私でなくてよかったなぁ...、なんて。
 炸裂した妄想癖の産物ではなく、これはもし私が横浜へ昨日足を運ぶ機会があったのなら、大きな確率でありうるかもしれなかった出来事だ。その引き金は少しの気の緩みでいい。ただそれだけ。
 そんな私はミニマムと書いて奇跡と読む人々の気持ちなんて、到底理解することは出来なかったし、する気も起きなかった。ifの世界で永遠に等しい数繰り返される悲劇、これは呪いだ。それ以外に何と呼べばいいのかすらわからない。繰り返す、これは呪いだ。

  


「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -