*「どうか私に断罪を」番外編




「え!翔陽、バレーで全国行ったの?!」


中学のクラスの同窓会、というほど大仰なものでは無いけど、半分くらいが集まって思い出話に花を咲かせていた時だった。
飲食店の大きな個室、隣のテーブルの日向くんの周りがワッと湧いた。気になって他のテーブルの人達もそちらを伺う。もちろん、私も。


「おう!全国、行きました!」
「すげー!翔陽、すげー!」
「バレーって、春高?」
「そう!春高!」
「日向は応援?」
「んなっ!ちゃんと試合出ましたー!」


バレー、春高。
そういえば代表決定戦の応援行ったっけ。懐かしいなぁ。残念ながら青城は負けてしまったけど。

あれ、そういえばあの時、対戦相手の高校名に聞き覚えがあった。


「ねえ日向くん」
「ん?なに、名字さん」
「日向くんって高校どこだっけ」
「烏野!」

からすの。あっ。

「そうだよ烏野!うちと戦って勝ったとこでしょ!」
「うち?」
「私、青葉城西高校!」
「え!そうだったんだ!」

ずずいと日向くんに体を寄せた。

「国見英ってわかるー?」
「国見!知ってる!合宿もした!」
「もしかして冬頃の強化合宿?」
「そう!なんで名字さん知ってんの?」
「英から聞いたから」
「へぇー、仲良いの?」
「ふふふ、彼氏」
「!!」


彼氏、という言葉に日向くんは驚いて赤くなった。ちょっと面白い。
同じテーブルにいた女の子たちが、彼氏?!ちょっと、詳しく!と騒ぐのに、後でねーと笑って返す。今は日向くんに英のこと聞きたいから。


「私バレーわかんなくてさ、英ってどんなかんじなの?」
「国見は、すごい!器用だし、楽なバレーだ!」
「楽?」
「アイツ、体力温存すんの!囮で真面目に飛ばなかったりボール追わなかったり!」
「それダメなんじゃないの?」
「でもそうやって体力温存して、試合後半、皆疲れた頃に本気出してくんの!すっげえ厄介!」
「へぇえ」

なにそれ、なにそれ!ヒーローは遅れてやって来る、って感じですごくカッコイイじゃん…!

「もっと聞きたい!英のこと!」
「まかせろ!俺は合宿でたくさん国見を観察したのです」
「わー!日向くんさっすが!」
「フフン!」




「ってことがあってね」
「…」


英の嫌そうな顔。最近見る頻度が減ってたから面白い。
まあね、自分のいないところで自分の話をしっかりされたわけだからね、何言われたかもわかんないもんね。
大丈夫、英の株がさらにさらに上がっただけだったよ。


「日向くんに聞いた英の話を踏まえて英がバレーしてるとこ見たい!」
「…なんか、やだ」
「えっ」
「…」


ふい、とそっぽを向いた英。
後ろから抱きついて耳元に口を寄せた。耳が弱点なのはもう分かっているんだからね。

「だめ?」
「っ」

「私はかっこいい英を見たいだけなのになぁ」


声には吐息多めで。あまったるい声を出すと、英は呆れたようなため息。
それならこれでどうだ、と耳を甘噛み。噛んだところを優しく舌でなぞると、英はぴくりと震えた。ほら、弱いんじゃん。


「英、大好き。お願い」


はぁーーー、と長いため息のあと、がばっと英の手が背中にひっついた私を引き剥がしてほっぺたを摘まれた。


「いひゃい」
「来週」

首を傾げる。来週?

「来週の日曜、練習試合ある。たぶん見学できるよ」
「ほんとに?!」


私の頬を虐める英の手をむんずと掴んではがして、そのまま英の胸に飛び込んだ。受け止めて背中に手を回してくれる英、かっこいい、優しい、好き。


「騒がないでね、あと目立つのもだめ」
「大人しく英のことだけ見てるよ」
「…それならいい」


もー、私の彼氏超可愛い、可愛い。


英がバレーしている姿を見るのは、それこそ代表決定戦の試合で遠くから見た以来だ。あのときは大きな体育館で辛うじて顔が見える程度だったから、今回はきっともっと近くから見られるだろう。楽しみで仕方ない。

及川先輩がいた頃は、練習試合の度に女子生徒が応援に駆けつけていたらしいけど、今はどうなんだろう。どうしよう、英目当ての女の子が来ていたら。ありえない話じゃない。だって英はかっこいいしモテる。
英の魅力をわかってくれる人がいるのはとっても喜ばしいことだけど複雑な気分だ。

悶々と考え込んでいたら、英が優しく頭を撫でてくれた。


「頑張るから、まあ、見てて」



かっこよ死。

私の死因はかっこよ死です。英がかっこよくて死にました。それくらい心臓がわかりやすくずきゅうん、と音を立てた。

練習試合でもきっとかっこよ死してしまうだろう。けどそれも本望だ。


ho capito


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