先公の言うことなんざ、聞かねえ。それどころか親も警察も、知ったこっちゃねえ。そんな生き方してたら、不良のレッテルを貼られるようになった。
だからっていい子ちゃんになろうなんざ考えたことねえし、このままでいいと思ってる。このまま、黒木と斗叶と一緒に三人で好き勝手やれたら。
「君」
黒木からいつものゲーセンにいると連絡があって、学校を出ようとした。少し高いソプラノに呼ばれ足が止まる。
「あ?」
目つきを鋭く、ぎろりと睨んでやれば大体の奴は逃げ出していく。そう思って、ドスの効いた低い声も足して振り返ってやれば、そこには小麦色の肌をした女が立っていた。
「十文字くんでしょう」
「…何か用かよ」
「昨日、この近くでケンカしてた」
全く要領を得ない会話に苛立ちを感じる。俺に負けず劣らず鋭い目つきを光らせて、気丈に振る舞う女。怒りを含んだその声色を聞いて、少しばかり逃げ腰になってしまう。
「だったらなんだよ」
「バットをケンカの道具として使うのはやめて」
つかつかと俺の方へ近づいてきたそいつは、思ったよりも小さくて拍子抜けしてしまう。
「いい?今度やったら、アンタが乗り回してるバイク、廃車にしてやるから」
どん、と俺の胸を叩いてそのまま歩き去る女。ずしんと響いた重い拳は、じわじわ骨に響く感覚がした。
なんだよ、畜生
「待てよてめえ!」
ぷちん、と頭の中で何かがキレて、何か言い返してやろうと後を追うと、既に奴は随分と遠くを走っていた。たかが女だ、追いつけねえハズがねえ。そう、思ったのに。
「どうなってんだ…!」
ぜえぜえと肩で息をして、奴の背中が消えて行った先を恨めしく見つめる。ああうぜえ。汗だくだ。なんだったんだよ、一体。
スポーツなんて糞食らえ
(んなダセーことできるかよ)
初期の十文字