「うがー!!!近い!!近いよあいつら!!あンのサディストヤロー、彼女いんのに他の子といちゃいちゃすんのか!!!こちとら何日も前から放置プレイに耐えてんだぞコノヤロー!!」
「あ……名前さ、…苦し」


真選組密偵山崎退。ただ今生死をさ迷っています。誰か助けてください。彼女を止めてあげてください。


「…死、ぬ……」


あーこれは潜入捜査より辛いな。こんなことになるならあの時、門の前で困っている名前さんを放ってさっさと自室に引っこむんだった…。
今朝方、副長から頼まれていた任務をこなして、屯所に帰ってくると、門の前に沖田隊長の恋人の名前さんが立っていた。隊長に用があるんだと思って声をかけたら……。


「名前さん?」
「あ、退さん。おはようございます」
「沖田隊長ですか?」
「えと…その、今お時間ありますか?」


俺は暇じゃなかった。これから副長に報告を入れなければならない。もし一刻でも遅れれば副長は鬼神の如く怒号を飛ばすだろう。名前さんには悪いけど、あの鬼の餌食になるのはごめんだった。だから、


「あ、すいません。俺、今か「ありがとう!!さ、行きましょ?」
「え」


有無を言わさずぐいぐいと腕を引っ張っていくこの光景に、俺は妙な同一感を感じた。これはまさか…!?


「さっさと歩けよザキ。その粗末なモン使えなくしてやろうか」
「え……」


お、汚染されてる…!!純粋だった名前さんの心が、あのサディストの手によって汚染されている!!!


「聞こえなかったのか?地味。これ以上私の手を煩わせてみろ、どうなる「ご、ごめんなさい!すいません!!!今行きますっ!!」


これは副長に怒鳴られるな……絶対。下手すりゃ殺されるな……絶対。でもここで名前さんの言うことを聞かなかったら…、むむむ無理だぁぁあぁぁああぁあぁ!!!!俺には選べないいぃぃいいぃいぃ!!!


「行くぞ」
「は、はい……」


尋常じゃない怖さ(前に会った時は本当に綺麗でつつましい人だったんですよ!!本当に!!)で俺の前をずんずん歩く名前さんにそのままついて行くと、そこには女の子と親しげに話す沖田隊長がいた。


「あれって…」
「今日、総悟は潜入捜査か何か?」
「いえ。今日は非番のはずですけど……。それに、よほどのことがないと一番隊隊長が潜入捜査なんてしませんよ」
「……総悟の彼女って私だよね?」
「え?ああ…そう聞いてますけど」


…ちょっとさっきから名前さん怖い。明らかに声がすごんできてるよね!?


「愛してるって言ってくれたよね?」
「いや知らないですけど」
「お前みたいな、ドS心を刺激する調教のし甲斐があるメス豚はいないって……あの時の言葉は嘘だったのォォォォ!!!!」
「ちょっとォォォ!!知らねーって言ってんだろーが!!!つか何?何のシーンそれ!?あの人そんなこと言ってんのかァァア!!!」


……という具合に朝から完璧に名前さんに流されてる俺。…………は!!いけない。意識が遠のいて、さっきまでのことがまるで走馬灯のように駆け巡りかけたよ。いや、今も駆け巡って、


「…はっ!?奴ら移動したわ!追うわよ!!」
「げほげほ…は?ちょ」


必死に肺に酸素を取り入れながら、名前さんの背中を追う(というか引っ張られてる)と、隊長と女の子が団子屋に入って行くところが見えた。



「……こんの」


名前さんの体は、怒り故にわなわなと震えていて、とんでもないオーラを放っている(この体に刺さるような威圧は何!?)。


「………行くぞ退」
「は、はい」


団子屋の中は割と広くて、むしろここは色んな甘味を取り扱っている店らしい。ファミレスのような内装だ。その中で、隊長たちは窓際の席に座っていた。


「こちらのお席へ「ここで」
「はい?」
「ここでいいです」
「ちょ、名前さん」


俺がちょっと目を離した隙に、名前さんはウエイトレスさんの誘導を無視してまだ片付けも終わっていない席に座っていた(確かにここがベストポジションだけども!!)。


「すいません…」
「いえ……ご注文は?」
「み、みたらし一つ……名前さんは?」
「…」
「………お、俺と同じものを!」
「か、かしこまりましたー」


さっきから完全に自分の世界に入っちゃってるんですけどこの人。ただじっと黙って楽しそうな二人を見てるだけなんですけど。


「…」


しかしあの子は誰だろう。本当に体長の浮気相手なんだろうか。出されていたセルフの水を一口飲むと、俺も隣にならってあの二人を観察することにした。


「……、……せ…や………ァ」
「え、………で……!?」


会話まではよく聞こえないが、どうやら隊長があの子に団子を食べさせてあげるようだ。口元に差し出された団子に、抵抗するわけもなくにこにこと笑いながら口を開ける女の子。あ、いけない。この殺気は、


「はあああああああああ!!!!!?何いちゃついてんのあいつら!!?私だってあーんなんてされたことないのにイィィィイイィィ!!!!!」


がっしゃーんと机(ボルトで留めてあったハズだよね!?)をひっくり返して、いざ乗り込まんと着物の裾をたくし上げる名前さん。


「おおお、落ち着いてくださいいい!!」
「これが落ち着いていられるかァァァアアアアァアァ!!!!!」


結構大きな音が出てるのに、あの二人はまったくこちらに気づかない。と、というかエスカレートしてる!!隊長が女の子の頬についたみたらしをとってあげてるよ!!


「うがあああああああ!!!!!」
「名前さんんんんんんんんんん!!!」


この騒ぎは、二人が店を出るまで続いた。名前さんは暴れに暴れて、店のテーブルとソファ、窓ガラスを破損させる始末(仕方ない。請求は沖田隊長でいいかな)。


「少し落ち着いてくださいね!?いいですか!?」
「分かってるよ、いちいち話しかけんじゃねー。ただでさえイライラしてんだからよ」
「…」


しかし、店を出た後も、二人のラブラブっぷりは続いてしまったのだ。




「手ェ繋いでる!!あいつら手ェ繋いでるよ!!!何あの人純情ぶってんの!?首輪つけろよ私の時みたいによォオオォォオ!!!」

「何!?それ買ってあげるの!!?そのかんざしを!!?私には何にもくれたことないくせにかアアアァァアァアァァ!!!!!」

「うわ、何!?あれお揃いのアイマスクじゃね?あのヤロォォォ!!あれは宇宙人からもらった貴重なモンだからこの世に一つしかないって言ってただろうが!!!そんなモンなくても一生眠らせてやろうかアァァアアァア!!」

「言えよ!!その子にもさぁ!!!その子にも語尾にワンつけろって言えよ!!!」

「ぶわはははははは!!ボート!?ボート乗るの!?てめぇら一生沈んでろォオオォォオォォ!!!!」


名前さんはずっとこんな感じで叫んでた(殺気を放ちながら)。そりゃあもう鬼の副長と並ぶ程の勢いで。初めこそ俺も被害にあっていたが、それも後半はなくなって(代わりに公共のものがたくさん壊れたけどね!)俺はあの二人をじっくり観察来ることが出来ていた。で、分かったことが一つ。


隊長はちらちらこっちを見ている。つまり名前さんが見ていることも承知の上でのこの行為ということだ。でも決して俺とは目が合わないから、きっと名前さんのことを見ているんだろう。


「………死…………呪っ………獄………」


……散々怒り狂った後に、撃沈した名前さんは何やら物騒な言葉をぼそぼそ呟いている。恐ろしい。女の嫉妬ほど怖いものはないのだ、と俺は心底思った。


「!?」


どうやって声をかけてもまったく返事をしてくれない名前さんにため息をついて、隊長のほうに視線を移すと、今日初めて目が合った。と思ったら、今まで爽やかだった表情がみるみるうちに変わっていく。にやり。


た、楽しんでるうううううううう!!!!!何あの顔!!あの満足そうな笑みは何!?すっごい楽しそうなんですけど!!あの人自分の彼女が嫉妬で怒り狂う姿見て心の底から楽しんでるよ!!サディストだ!!あの人最強のサディストだ!!


「総悟のばかやろー」


可哀そうに。あんなサディストに恋をしてしまったばっかりに、こんな悲しい思いをするなんて……。


「名前さん、元気出してく「もう我慢できない!!!!あンのサディスト血祭りじゃあああああああああ!!!!!」
「えええええええええええええええ」


猛ダッシュで急接近していった名前さんを止めようと、必死で走るが追いつかない。なんて足の速さだ。あれは人か。


「名前さんストップですって!!!」
「死ねえええええええええええええ!!!!!!」


このままじゃ危ない。と思った時だった。ぴたり、と名前さんの動きが止まったのだ。それはもう不自然極まりないタイミングで。


「っととと。名前さん?」


急ブレーキをかけて名前さんの顔を覗きこむと、そこには初めて見る表情があった。


「名前…さん?」


名前さんは、何も言わずに来た道を走って行ってしまった。名前さんがこうなってしまった原因だろう二人を見ると、今まさに顔が離れるところだった。…この少し前、名前さんが見てしまった光景など、安易に予想できる。


「っ……名前さん」


もうここからは見えなくなってしまったが、まだそう遠くには行っていないだろう。俺は探しに走る。


「山崎ィ」


――振り返ると、少し驚いた顔の隊長の姿。


《名前は?》


視線がそう言ってる。本当に自分が楽しみたかっただけなのか、それとも何か意図があったのか。俺なんかが知る権利はないだろうけど、名前さんを追う権利なら俺にもあるはず。


だって彼女は泣いていたから


俺じゃだめなのかい?
(俺はこんなこと、しないのに)


続きます。



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