俺がいつものように鍛錬場へ向かっていると、前から何やら甘ったるい匂いを撒き散らせてこちらへ来る女がいた。そいつは俺に気づいたのか、どんどんこちらへやってくる。

「神田!」
「………は?」

よお。と手を挙げた女…。いや、名前…?

「お前……名前、か?」
「そうだけど…へん、かな」
「ああ」

何やら目の周りを黒く塗ったりきらきらと光らせてみたり、まるでいつものこいつとは違った。昨日も泥だらけで手合わせをしていたが、目の前の女が昨日と同じ女だとは思えなかった。

「変か…」
「誰だかわかんねえよ」

つか、くせえし。

そう言うと、名前は慌てて自分の匂いを嗅ぎ始めた。慣れねえことするからだろうに。

「香水、つけすぎちゃったかな…」
「つか、新技。研究すんじゃねーのかよ」
「今日はだめ!明日からにする!」
「俺は今日やる。付き合え」
「だ、だめだ!」

これほど頑なに拒む名前も珍しい。…でもな、んな格好してるとこ見ると街にでも出るのか?仕方ねえからマリにでも付き合わせることにする。

「分かった。じゃあな」

地下水道へ向かうのであろう名前に背を向けて、鍛錬場へ向かうことにする。しかしその甘ったるい匂いは少し遅れて俺の後に付いているように感じた。振り返ると、やはり罰が悪そうにこちらを見る、名前。

「…なんだよ」
「途中まで一緒なんだもん」
「…は?地下水道はあっちだろ」
「違う、今日は研究室に行くの」
「…………は?」

とうとう頭おかしくなったか、こいつ。


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