僕がその異様な光景を見たのは、正午の食堂でのことだった。昼食を取ろうとジェリーさんのところへ向かったのだが、そこには見慣れぬ後ろ姿。きょろきょろと周囲を伺っている怪しい人物が目に入った。
「じ、ジェリー、さん!」
しかし怪しい人物は、僕が何度も聞いたことのある声で話すのだ。この声の持ち主は明らかに知っているはずなのだが……こんな女らしかっただろうか?
「あらン?どうしたのー?」
「今日のお化粧…、変じゃないですかっ…!」
「うふ。とっても可愛いわよ〜!でも、ちょっとチーク塗りすぎかしらん?のぼせちゃってるわよ〜」
「な、なおしてきますっ」
くる、と振り返ったその人に、心当たりがあったはずなのに見間違えそうになってしまった。えーっと……
「名前?」
だよね?
「あ、あれん」
どうやら人違いではなかったようだが、一体どうしてしまったんだろうか。いつも無造作に束ねられている髪は綺麗にまとめられ、おまけに可愛らしい髪留めまでついている。いつもより目がぱっちりしているのは化粧のせいだろうか。なんだか、違う人のようだ。
「ど、どうしちゃったんですか?」
僕の問いかけに少し頬を染めて、恥ずかしそうにはにかむ名前。その姿に少しだけどきっとしてしまった。…いやいやおかしい。あの剛腕な名前がこんなおしとやかだなんて…!!
「今日は、報告書を自分で出すんだ…!」
じゃあ、またね!と彼女は笑って去って行った。嗚呼、もしや噂に聞くあの人にとうとう会いに行く日が来てしまったのか。これまでの名前だったら、廊下や壁を破壊してまで会いたがらなかったというのに。
「ようやくですか…」
彼女の目覚ましい進歩は、僕もなんだか感慨深いものがある。成功したらいいけどなあ。まあでも、
またあの時のように照れ隠しで柱を折らなければいいんだけど。