医務室から帰って、リナリーと一緒に科学班フロアの目の前まで来ている。今はリーバー班長に会う前の最終確認の真っ最中だ。

「髪型よーし!メイクよーし!服装よーし!」
「リーバー班長の前では、ちゃんと笑顔でね」

リナリーに言われて、少しだけ笑顔の練習もしたけれど、緊張で引きつっていると言われてしまった。…で、でも、今日はきっと大丈夫だ!何を話すのかはきちんと考えてきてあるんだから。

「さ、行くわよ」
「うん…!」

やっぱりまだ心の準備が、って思ったけど、リナリーの手によってフロアへの扉はあっけなく開いてしまった。

「こんにちはー!」

いつも通り元気のよいリナリーの後ろに隠れて、こっそりリーバー班長の姿を探す。

「みんなお疲れ様」
「リナリー!コーヒー!」
「うん。今用意するね」

キョロキョロと辺りを見渡してみても、お目当ての彼の姿は見当たらなかった。休憩中、だろうか。…ああ、もう。タイミング悪いなあ。

「あれ?なんで名前がここに?」

私が項垂れていると、不思議そうな顔をしたジョニーが近付いてきた。…そういえばジョニーって科学班だったっけ!

「…リナリーのお手伝いしに来たのよぉ」
「えーー!あの名前が?」
「…なによ」
「いや、いつも鍛錬しかしてるイメージなかったからさ」

ごめんごめん、なんて笑うジョニーだけど、今はそれどころじゃない。リーバー班長、どこに行っちゃったのかなあ。

「リナリーーーっ!!!ありがとう、とっっっても美味しいよこのコーヒーーっ!」

大きな声に振り返れば、コムイ室長がリナリーの手を取ってくねくねしていた。…そうだ、私も手伝わないと!

「じゃあお仕事頑張ってね、ジョニー」
「あ、うん!」

ぱたぱた走って給仕室へ向かうと、コーヒーのカップの中に一つだけジュースの容器があった。【泡】と書かれたこれが、恐らくリーバー班長のものなんだろう。

「レモンソーダ…」

このところ徹夜続きだと聞いていたから、労わってあげたかったけど、また次の機会になりそうだ。残念。…でもきっと大丈夫!今日出来たんだから、またすぐに来れる!はずだ!


「あっ、そうだ!リナリー、一緒にちょっと息抜きに行「仕事してください」


少し疲れたような、優しい声色が聞こえる。姿を見なくてもすぐ分かった。

「リーバー班長だ…!」

「あ、リーバーくんじゃないか」
「あ、じゃないっスよ。目を離したらすぐこれだからまったく…」

リーバー班長がデスクに座ったのを見て、私はこっそり彼に近づいた。

気づかれないように静かにリーバー班長の後ろにまわる。ここからだと、ペンを走らせる背中が見えて、思わずうっとりしてしまった。嗚呼、なんて素敵なんだろう!

「リーバー班長、レモンソーダです」

邪魔にならないような声で、こっそり。邪魔にならないような場所に、こっそり。遠慮に遠慮を重ねて、私は任務を遂行した。

「お、お仕事、頑張ってください!」

深々とお辞儀をすると、次に顔を上げた時にはリーバー班長はこちらを向いてくれていた。わ、あ…やっぱり正面もかっこいい…。

「あれ?名前がここにいるなんて珍しいな」

リーバー班長が不思議そうにしているから、慌てて言葉を探した。優しい声色にふわふわしている場合じゃないぞ、会話をしないと。

「えと…、リナリーのお手伝いをして、ます!」
「そうか、ありがとう。奴らも喜ぶよ」
「そ、そうですかね…」
「ああ。班員たちからよく名前の話は聞くしな」

特にジョニー、タップあたりから。と、リーバー班長は笑った。瞬間驚いて、思わずお盆を持っている手に力が篭った。どくどくと心臓が焦り始めて、ここ最近のジョニーやタップとの会話を思い出す。

変なことは言ってなかっただろうか、あの二人には私がリーバー班長のことが好きって言ってなかったはず。でももし誰かから聞いていたら?

すでに頭の中はショートしかけていた。でも、リーバー班長が心配そうな顔でこちらを見ているのが分かって、必死に言葉を絞り出す。

「リーバー班長が…、わ、私の話を…?」
「あ、ああ…」


「ど、どんなことを聞いたんですっ!」

変なことだったらどうしよう!せっかく話ができるようにまでなったのに、リーバー班長は私の何を知っているんだろう…。

「い、いや…組手で名前に勝てる奴はいないとか、腕相撲でソカロ元帥を倒したとか…」

さあ、と血の気が引いていくのが分かった。目の奥がじんわり熱くなって、視界が霞んでしまう。リーバー班長がどんな顔をしているのかさえ、わからなくなってしまった。

「え、あ、…名前?」
「わ、わたし…わたし……」

必死に言葉を紡ごうとしても、なかなか上手くいかない。ぽろりと零れた涙が、地面へ落ちて行った。

「名前、悪かっ「わたし、ソカロ元帥とは引き分けでしたからっ!!」

フロア中に響く声でそう叫んで、私は走った。人をかき分けて、ドアに向かって突き進む。廊下を全力ダッシュしていたら、「今日も鍛錬か、精が出るな」とマリに話しかけられた。くそう。乙女心は壊れやすいんだから。


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