「アルヴァ!悪いんだがジョニーのところに部品運んできてやってくれ」
「はい!」
ラボの中は、ああでもないこうでもないと論ずる声と、バタバタと慌ただしく走り回る音が鳴り止まない。
今、黒の教団本部の科学者は必要最低限のメンバーをフロアに残し、ほとんどの人員がこのラボの中へと借り出されていた。
「くれぐれも慎重に扱えよ。こいつはダークマターの塊だ」
いつも朗らかな空気が漂うラボも、今日はぴりりとした緊張が走っている。
今日は、本当であればイノセンスの詳しい検査をするはずであった。ヘブラスカさんがその必要があると、室長へ報告をしたらしいのだ。
しかし、著しい科学者不足と、万が一アクマのウイルスに感染してしまった時の予防策として、私がこの場に立ち会うこととなった。もちろん、願ったり叶ったりなのだが。
「班長、R2地点動作確認完了しました」
「ああ。ありがとう」
「「「アルヴァ!!!!!」」」
班長と実験の確認をしていると、ラボの外、立ち入り禁止看板の向こう側でアレンくんたちが顔を覗かせていた。大きな声で名前を呼ばれて、ラビくんがぶんぶんと大きく手を振っている。
「皆さん!」
「良かったさ〜!!元気になったんだな!」
「安心しましたよ!」
「心配おかけして、すみませんでした」
私の姿を見て、こんなにも心配してくれるんだと思うと申し訳ない半分、嬉しくもあった。見たところ、皆さんも元気なようだし安心だ。
「お前らこれから飯か?」
「そうさ〜」
「よし、アルヴァ。お前も行ってこい」
「いいんですか?」
ちょうど良いタイミングでぐう、とお腹の音が鳴って、少しだけ恥ずかしくなった。
「ああ。ちょうどジョニーたちも帰ってきたしな」
「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えて」
持っていた資料を班長に渡し、立ち入り禁止の柵を越えて皆さんの元へ駆け寄る。久しぶりに会えたエクソシストの皆さんに、心が弾む。
「お腹空きましたね〜」
「私もです」
「ん〜、何食おうかな〜」
「アルヴァ、」
ふ、とリーバーに名前を呼ばれて立ち止まる。振り返れば、なんとも言えない表情をしたリーバーが立っていて。
「どうかしましたか?」
眉を潜めて首を傾げれば、彼は困ったように笑った。
「ああいや…なんだろうな」
「…?」
珍しく歯切れの悪い物言いをするリーバーに、違和感を感じた。少し先を歩いていたアレンくんたちも、私が足を止めたのに気づいて立ち止まってくれている。一体、彼はどうしてしまったのだろうか。
「なんさ〜?リーバーも腹減ったのか?」
「…そうかもな。アルヴァ、帰りに何か軽い物、貰ってきてくれ」
ぎこちなく笑った彼の表情に、何か後ろ髪引かれるような感覚がした。でも、ラビくんたちと一緒に歩く足は食堂へ向かう。
違和感を感じる胸の鼓動は、久しぶりに皆さんに会えた弾む気持ちに掻き消されて、なくなった。