なんだかとても心地の良い場所にいる気がする。意識が優しく溶けていくようで、嫌なことも辛いことも、全て泡になって消えていくようで。
至極幸福な空間の中にいて、私は直感的にここから出なければ、と感じた。
沈んでいた意識がどんどん浮き上がっていく感覚に包まれて、私は誘われるように瞼を開いた。
「…」
白。薬品の香り。毛布。包帯。
それまで止まっていた思考回路が、ぐるぐる回りだす。任務は、終わったんだっけ?クロス元帥は、いた?方舟からの脱出は?
少しずつ、少しずつ脳が理解していく。記憶を辿って、現状を見定める。
「アルヴァ、」
視線がゆるりと声に誘われる。
嗚呼、そうだ。
「おはよう…リーバー」
全部、終わったんだよね。
体を起こそうと身を捻ると、身体中に痛みが走った。びくん、と体が震えて思わず顔をしかめる。
「いて、て…」
「いいから寝てろ」
私の額にかかる前髪を優しくといて、リーバーは本当に幸せそうに笑った。そのままする、と頬に手を滑らせて、優しく優しく撫でてくれる。なんだかくすぐったくて、温かくて、自然と涙が零れた。
「な……どうした!?どこか痛むのか?」
「あ、ちが…。安心、して」
えへへ、なんて笑って見せればリーバーが優しく涙を拭ってくれて。ぎゅ、って私の手を握りしめてくれる。じんわり広がる温もりに、また目頭が熱くなった。
「おいおい、まだ泣くのか?」
「も、へーき…ですっ」
呆れたように、リーバーが笑う。やっぱり、リーバーが笑ってる顔を見ると安心する。世界が笑っている、そんな感覚。あなたがいてくれる幸せが、ずっとずっと、続きますように。
「じゃあ、そろそろ仕事に戻るよ。あいつらにもアルヴァの目が覚め「リーバー」
せわしなく動く唇を捉えて、自分の少しかさついた唇を押し付ける。はむように何度か重ねた後に、開いた目に入ったのは真っ赤に染まった耳たぶ。
「なっ…、」
「お仕事、頑張ってね」
なんでこんなことをしたのか、自分でもよくわからない。でも、たまらなく愛おしかったのは確かで。
「大好きよ」
ああ、もう。幸せだ。