マルコム=C=ルベリエは自室で任務の命を下していた。低く、まるで人の耳に入るのをはばかるような声で、彼の忠誠な部下へ淡々と任務を告げる。
もちろん部屋の前には屈強な男が人払いをしているため、誰もそこへ入ることはできない。中央庁特別監査役の長官はそれほどの権限を持っていた。
「失礼」
しかし、その権限を遥かに超えた横暴を許された人間がいた。人払いを物ともせず、無遠慮に扉を開け放つ。驚いた表情を見せたルベリエだったが、入って来た人物を確認すると諦めたようにため息をついた。
「ルベリエ」
「…どうかしましたか?ジュエリー博士」
つかつかと歩き、博士と呼ばれたその人物は上等なソファに深く腰掛けると、長い足をゆったりと組む。
「例の報告に来た」
「計画は」
「順調。後は当人の了承を得るのみだな」
く、と浅く喉で笑って余裕たっぷりの表情を見せた博士はあからさまに表情が変わったルベリエを見て、至極皮肉そうに笑うのだった。
「そうですか」
「貴様には情けというものがまるでない」
「しかし、あなたは協力してくださるじゃありませんか」
感謝していますよ。そう言って頭を下げたルベリエだったが、博士の興味は既にそこにはない。ふ、と先ほどから背筋をしゃんと伸ばして微動だにしない青年に目がいった。
「任務か。精が出る」
「お久しぶりです。ジュエリー博士」
「ハワード・リンクだろう。よく覚えている」
ありがとうございます。深々と頭を下げたリンクに対し、今度はきちんと向き合ったようで博士は頬に笑みをたたえてその青年を眺めていた。
「アレン・ウォーカーというエクソシストはご存知ですかな?博士」
「…ああ」
「彼にはウォーカーの監視をしてもらいます。本部へ行って、ね」
ルベリエの含みのある言い方。その意図に気がついた博士は、素知らぬ顔でリンクへ視線を戻した。
「ハワード・リンク」
「はい」
「私からも一つ、任務を頼みたい」
「…、博士」
がたん、と音を立ててルベリエが立ち上がる。リンクがどれほど重要な任務につくのか、博士には理解できないであろうと感じたルベリエは、その焦りと苛立ちを隠せずにいた。
「安心しろ。任務と称するのもためらうほどに、容易いものだ」
「引き受けてくれるな?」
リンクは、目の前の博士の慈しむような瞳を見て驚く反面、この任務を引き受けようと、既に決めていた。
「はい」