「アルヴァ!!!」
リーバーを視界に捉えてからは、早かった。私が「ただいま」を言えばリーバーはあっという間に私のところへ飛んで来て、きつくきつく、抱きしめる。
「良かった…本当に…!!」
ぎゅうぎゅうと音が鳴りそうなくらいの力で抱きしめられると、痛めた身体中あちこちが悲鳴をあげた。肩口がじわ、と赤く染まっていくのを見て、私は遠慮がちに声をかける。
「り、リーバー…、いたい」
「わ、悪い!…大丈夫だったか…?」
私の顔を覗き込んだリーバーの目元は、涙の跡がついている。それに加えて、真っ赤に染まった鼻が彼が泣いていたのだと示していた。ぐす、と鼻をすする仕草もしている。
私は、安心させるようにリーバーの頭を撫でた。
「遅くなって、ごめんなさい」
私は大丈夫。元気で帰って来たのだから。
「随分汚くなっちゃいましたけど、全然平気です!もう痛くもなんともありませんよ!それから、たくさん心配させてしまって本当、に…」
考えていた伝えなきゃいけない言葉はまだいくつもある。それから、それから、と考えを巡らせていたらリーバーが私の頭に手を置いた。
「いい」
リーバーは険しい顔をして、私の言葉を遮る。
「そんなの、いいから」
「おいで」
目の前で手を広げたリーバーを見て、表情が固まった。
張り詰めていた緊張が、意地が、必死に保っていた平静が、がらがらと崩れていくのが分かる。
リーバーに心配をかけたくなくて、涙するリーバーを、支えてあげたいと思って。だからあと少しだけ、平気な振りをしようと思った。
だって、だって、ね。
すごく、こわかったの。
痛くて、辛くて、もうリーバーに会えないかも、って思ったんだよ。死んじゃう、って本気で思ったんだよ。
だから、これも夢なんじゃないかって。そう思っちゃうくらいに、わたし、わたし…!
「…っ、…ひ」
いつの間にか溢れていた雫を、リーバーが拭ってくれた。でもいくつもいくつも零れてきて、それじゃあ追いついてないよ、止まらないよ。
わたしは、弱かった。他の誰よりも弱くて、守られてばかりだった。自分は何一つ守れてない。そのことが、何よりもただ悔しくて。
スーマンさんが咎落ちになったと聞いた時、リナリーちゃんが帰って来なかった時、アニタさんたちと別れた時、体に残ったダメージで意識を失った時、方舟で仲間がバラバラになった時。
それまでずっと飲み込んでいた涙が、今になって全て流れてきているようだった。
本当はあの時に泣いてしまいたかった。気の済むまでうんと泣いて、楽になりたかった。でも、そんなことできなくて。
溢れる涙をそのままに、とん、額をリーバーの肩口に預ける。
…ずっと、こうしたかった。ずっとずっと、あなたに抱きしめてもらいたかった。
「よく、頑張ったな…」
「帰ってきてくれて、ありがとう」
「おかえり」
その言葉を聞いてしまったら、どうしようもなく安心してしまうの。嗚呼、帰ってきたんだ、って。終わったんだ、って。
言いようのない安堵感に包まれて、ようやくじわじわと本来の痛みを感じ始めた私の体は、限界を告げていた。すう、と意識が遠のいていくのが分かる。
待っ、て…。まだリーバーの温もりを、声を感じていたい、の…。
「…ねえ、…リーバー……」
待っていてくれて、ありがとう。