「い…一方的…」
「ちょっとヘコむな…。力の差がここまでハッキリ出ちまうと」
私たちが束になっても適わなかった奴に、クロス元帥は余裕の表情で立ち向かっていた。傷を負うことも、膝をつくことすらせずに奴を追い詰めていく戦い。その行方は火を見るよりも明らかであった。
「オレたちはまだまだ、弱い」
ずきん、とラビくんの言葉が胸に鋭く突き刺さって、じわじわと痛みが広がっていく。こんなに、ぼろぼろになって死ぬ思いで戦っても、私はあの二人の足元にも及ばない。
「!…崩壊が!」
「そろそろか…」
地面は揺れ、次々とヒビが入っていく。立ち上がろうと体に力を入れると、じわり、と団服のあちらこちらに紅が滲む。嗚呼、せっかくジョニーさんが、心を込めて作ってくれたのにな。これじゃ台無し、だ。
「っ、!」
「アルヴァ!!!」
突然、浮遊感に襲われる。私が立ち上がる前に、足元は崩壊を始めてしまったらしく体が沈む。私の隣でラビくんも、同じように落ちていた。何かに捕まろうにも、辺りの崩壊は止まらない。
「ち…っ」
空を切ったはずの私の手は、何かに強く掴まれた。体が崩壊と共に落ち続ける中で、握られた手。
「ラビ!!」
「伸!!」
ラビくんが私の手を掴み、伸でアレンくんたちへ槌を伸ばした。
赤い頭の奥に、白髪の彼も黒髪の彼女も見える。それだけで、この絶望の中でも希望が見えた気がした。彼らなら、きっとこの最悪のシナリオを変えてくれる。全てを、救ってくれる。そう、思えた。
「「!」」
「…槌がッ!!ラビ!!アルヴァ!!」
砕けた小さなイノセンスの破片が零れてくるのと一緒に、リナリーちゃんの焦った声が降ってくる。上から押し寄せる瓦礫の山に、光は微かになった。
「ちぇ…。ティキにやられたんがきいちまったな」
「限界か…、くそ…」
落ちていく。時空の狭間に。どこまでも止まらない落下の中で、ラビくんは私を引き寄せた。そして自分の腕の中に私を閉じ込めて、きつくきつく抱きしめる。
何故か、私は涙が止まらなかった。これからきっと、私はあの消えゆく光を見ることはないのだ。仲間と笑い合うことも、研究をすることも、父に会うことも、友に会うことも、大好きな人に会うことも、ないのだ。
死んでゆく、のだ。
最後の任務は、終えることが出来なかった。
「ごめんな…守ってやれなくて」
耳をつんざくような崩壊の音の中、掠れた小さな声が微かに聞こえた。
「ラ、ビくん…」
それは私のセリフなのに。大切な仲間も、守れない。大切な約束も、守れない。大切な人が、ずっとずっと待ってくれているのに、私、は…もう……。
見渡す限りの闇。それを視界に入れた後で、私の意識はぷつんと切れた。