「なんスか今の…何故爆笑?」
「……」
「…不気味でしたね」
でも、もうティキ・ミックもロードもいない。この塔の上に扉があるのだ、とティキ・ミックが言っていたことを考えても恐らくもう敵はいない。
「おっと」
「…、あ」
緊張が緩んで、一瞬意識を失いかけてしまった。バランスを失った体は後ろへと倒れたが、それはラビくんが支えてくれたようだ。
「ごめんなさい、」
「ほら、もーちょっと頑張るさよ」
飄々としたラビくんの笑顔を見ていたら、つられて私の口元も笑みを作った。ゆるく上げようとした口角は、思ったよりも上手く微笑むことが出来なくて不恰好だ。長い戦いのうちに、私は笑い方すら忘れてしまったのだろうか。
「ねぇアレンくん、ロード消えたけど……この塔の上にある出口の扉は、ロードの能力なのよね?」
「「「あぁーーーーっ!!!!」」」
最後の最後で、私たちは大変なことをやらかしてしまったかもしれない。さあ、と全身の血の気が引くのが分かった。
「オレが先に上行って無事か見てくる!イケたらすぐ引き上げっから!」
「う、うん」
「あっと、引き上げる時3人も担ぐのはモヤシアレンには無理だろうから、アルヴァ連れてくさ」
「わ、分かりました!」
「モヤシは余計です!!頼みましたよ、ラビ!」
「伸ッ」
あわあわと焦るラビくんと一緒に、槌に捕まって一気に上へ。少し不安定な足場の中、扉があるはずの地に降り立つと暗がりの中、ぼんやりと光るそれがいた。
「…助かった…っ」
「はあ…。よかった」
ぺたん、と座り込んでしまった私を見て、ラビくんは笑った。その意図が読めずに少しだけぽかんとしていると、ラビくんは私の目線に合わせて座る。
「今回の頑張った大賞は、アルヴァかもな」
「え?」
私の両の手を取って、彼は少しだけ眉をひそめる。やわく撫でたその手が、温かかった。
「…痛かったっしょ」
「何を言ってるんです、ラビくんだって、」
リナリーちゃんだって、アレンくんだって、クロウリーさんだって、神田さんだって、チャオジーさんだって。みんなみんな、痛いのは同じ。辛かったのは同じじゃないですか。
そう告げると、ラビくんの手は私の手から離れて、背中へ。少し焦げた匂いのする肩が、目の前にあった。嗚呼、いつかもこうして突然抱きしめられたことがあった。その時も今もどうしてこうなったのか、分からない。
「ラビく「それでも」
「それでも、アルヴァには傷ついて欲しくなかった」
「ら、び…くん…?」
人一倍仲間思いな彼だから。きっと、私の身を案じてくれていたんだろう。でも、何故、何故そんな苦しそうな声色なの…?
「 」
「ど、…どうして」
「…なーんてな!」
抱きしめていた体を離して、立ち上がる。残された私がラビくんを見上げると、そこには先ほどの苦しそうな声が錯覚だったと思えてしまうほど笑顔の彼がいて。
「ラビくん…」
「…っまだあったぞーーーー!引き上げっからアレン、二人担げ!」
私も彼に倣って、ぐるぐるとうずまく不思議な感情に蓋をした。
「やっぱりオレじゃ、役不足さ」