『アルヴァ』
『リーバー…、』
私は目を閉じた。
ゆっくりと両の手に力を込める。そして、初めての時と同じようにゆっくり、確実に、発動した。
「滅罪ノ…檻」
その檻の中で、彼は抵抗もせずさらさらとほどけていく。私の目をじっと見つめたまま、形をなくしていくその様を見続けるのは、少しだけ胸が苦しかった。
「アルヴァはぜぇったい殺さないと思ったのにい」
どこからか少し残念そうな声が聞こえて、思わず口元が笑みをたたえる。
「彼は私に、【死んでくれるよな】なんて口が裂けても言いませんよ」
それが、決定打だった。その言葉を聞いた瞬間にこれはリーバーとは別の何かだと断言することができたのだ。そうでなければ、私は攻撃することは出来なかった。命を、落としていただろう。
私の帰りを待っていると言ってくれたリーバー。その彼が私の死を望むのは、私が彼の死を望むのと同じくらいあり得ないことだ。
「ゲームはアルヴァの勝ちか〜。また遊ぼうねぇ〜」
そのロードの声を最後に私は目が覚めた。目の前に飛び込んできた火判に、少しだけ状況把握に時間がかかったが、私は今にも飛び出しそうなアレンくんと、自分に無罪ノ加護をかけ、ラビくんの元へと急いだ。
轟々と燃える火判の中心に、彼はいた。ラビくんの苦しそうに歪められた顔を見て、瞬間私は彼に飛びついた。
「ラビくん!!!!」
「アルヴァ…」
薄く目を開いたラビくんは、酷く驚いている様子。とりあえず、彼の身を守ることができてよかった…。私は心の底から安堵した。
「ラビくん、大丈夫ですか?」
「ああ…ありがとう」
「間に合ってよかった…」
今も私たちの周りには火判が燃え盛っているため、外の様子はまるで見えなかった。しかし、アレンくんには無茶なことをしないように無罪ノ加護をかけてきたし、リナリーちゃんたちもロードの結界がある。きっと、大丈夫。
「アルヴァは…大丈夫さ…?」
「…はい!」
思っていたよりも明るい声が響いて、少しだけおかしかった。体の限界は、もうすぐそこまで来ていたにも関わらず、何故か心は晴れやかでとても軽かったのだ。
「少しだけ…強くなれた気がしました」
陰気な自分に、勝てた気がした。心のどこかにしまいこんでいた罪悪感や使命感が、少しずつなくなったような感覚。
「…良かったさ」
まるで石のように固まった火判の中から、ラビくんは私のことを引っ張り上げてくれた。舞い上がった塵に少しだけむせてしまったが、今まで負った傷以外、体には特に新しい異常はない。
「ラビ!アルヴァ!」
「リナリーちゃん、」
「大丈夫!?」
少し慌てた様子のリナリーちゃんは、覚束ない足取りでこちらへ近づいていた。その瞳は不安で揺らいでいたように見えるが、私たちと目が合うとみるみるそれが晴れていくように思えた。
「ああ。アルヴァのおかげでな」
緩く笑ったラビくんは、少し乱暴に私の頭を撫でて笑ってみせる。いつもと変わらぬそれが、私を安心させてくれた。
「、そうだ、ティキ・ミックは…」
「もう大丈夫ですよ」
少し離れたところからアレンくんの声がして、そういえば無罪ノ加護をかけたままだったと思い出す。慌てて解除して皆で歩み寄れば、ティキ・ミックはアレンくんが倒したと言うのだ。
「アレンくん、さすが「キャハハハハハハハハハハハハ」
久しく訪れることのなかった平穏な時。それを遮るかのように耳をつんざくような高い笑い声が、突如響いた。
「ロード…ッ」
「あはははははははははは」
声の主は先ほどまで私を追い詰めていたロードだった。恐らく火判によるものであろう酷い火傷を負いながら、高らかと笑うロード。狂気地味たその光景に、ただただ呆然と立ち尽くす。
「…アァ、…レン…」
ぞわりと悪寒が走る。砂と化したロードの姿を見て、改めて私たちの戦う相手はヒトではないのだと痛感した。