ティキ・ミックの中のノアを破壊することに成功した。しかし今は、心を失ったラビが僕たちに牙を剥いている。容赦ない攻撃に戸惑うけど、僕にはラビを攻撃することなんて、できない。


「どうしてボクの言うこときかないのさ、アレン。いくらアレンでも人の心はどうしようもできないよ」


何度僕が声をあげても、ラビには届かない。退魔の剣でも祓うことができない。

ロードの手によってリナリー、チャオジーが捕らえられ、アルヴァは精神攻撃を受けているらしくまったく動こうとしない。ラビが精神攻撃によって襲いかかってきている今、アルヴァもいつ同じようになるか、分からなくなった。


「火…判」
「……っ!」


ラビの周りにマル火が浮かび上がったのが見えた。

…火判を受ける日が来るなんて、思ってもみなかった、な


「あきらめなよ!!」


大きな音がして、僕の体は火判に包まれた。…ラビ、どうして…!


「炎を止めてーーーーーッッ!!!」


リナリーの悲痛な叫びが聞こえる。彼女のためにも、ここから抜け出さなければ…。何とかして、ラビを止めなくちゃ…!

その時、僕はいつまでも体が熱くならないことに気づいた。火判に飲まれているのにも関わらず、おかしい。


…まさか、


瞬間、ある可能性が見えた。ラビは操られてなんかいない。ラビの心は死んでなんていない。


「火加減無しだ!!!!!」

「火判!!」


自分自身に攻撃をするラビの姿が見えた。神ノ道化を呼び寄せて、ラビの元へと向かう。ーー死なせない。絶対に。

一気に跳躍して、リナリーたちが捕らえられているサイコロの上に降り立つ。そこからさらに飛び上がろうとした、その時だった。


「!?」


目の前が少し濁った。球体の何かに包まれて、いる。これは…!


「アルヴァ…!?」
「アルヴァがいないわ!!!」


リナリーの声を聞いてラビの方を見ても、アルヴァの姿は確認できない。それどころか、ラビの姿さえも確認することはできなくなった。


「ラビィィーーー!!!!」


火判は、轟々とひとしきり燃え上がった後まるで石像のように固まり、そのまま動かなくなった。パチン、という音が鳴り、サイコロ状の結界が開く。


「大丈夫ですか?リナリー、チャオジー…!」
「うん…ありがとう、アレンくん」
「…か、勝ったんスね、ラビさん…」
「でも…ラビは…」


ラビのこともある。しかし、この無罪ノ加護…。今は害はないが、アルヴァもラビのように心を失っている可能性もある。正気に戻っていてくれればよいのだが、僕たちに牙を剥くこともないとは言い切れなかった。


「ラビ…っ!」


リナリーたちが、火判の元へ近づくと、ぱきんぱきんと音が鳴った。期待を込めてそちらを見ると、現れたのは見慣れた赤毛。


「ぶはっ!!」
「「!!!!」」


盛大な音を立て、げほげほと咳をしながらラビは立ち上がった。その足元は少し覚束ないように見えるが、大事には至っていないと思われる。


「ラビ…っ!」
「おっとと…、」


ふらり、ラビの影が崩れて、動揺した。しゃがみ込んでしまったラビは、少しだけ周りのすっかり固まってしまった火判を手で砕くと、何かを掴んだ。


「けほ…」
「大丈夫さ?アルヴァ」


立ち上がった二つの人影に、安堵する。不覚にも僕は力が抜けて、無罪ノ加護の中でへたりこんでしまったのだった。



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