「僕と遊ぼー♪」
私とラビくん、リナリーちゃん、チャオジーさんの前にはロードが立ちはだかった。
至極楽しそうに体を揺らしているロードは、ふらふらと宙に浮いている。
「…リナリーちゃんとチャオジーさんのことは、お任せください」
「…頼むさ」
アレンくんがティキ・ミックと、ラビくんはロードとの戦いを始めようとしている。この状況で私が出来る事。それは非戦闘員の二人を守ることだろう。戦いの激化はまぬがれようがない。
「無罪ノ加護」
「だぁ〜めだよう、アルヴァ?僕、君とおしゃべりするのずっと楽しみにしてたんだからさぁ」
何の前触れもなく、私の目の前に現れたロードは私の両の手を持つとぐん、と強い力で引き寄せた。ぴりりとした痛みがイノセンスに走り、発動が消える。
「…、っ離せ!」
「アルヴァ!!!」
「怖い顔しないでよぉー、ブックマン」
えい、とロードが楽しそうに手を振りかざすと、リナリーちゃんとチャオジーさんはサイコロのようなものに囚われた。瞬間飛び出そうとしたが、ロードの手が鋭く食い込んでそれを許してはくれない。
「…っ、リナリーちゃん!!!」
「だ、大丈夫だよ!閉じ込められただけみたい…」
「ッス!」
「離せ!!」
私が吠えても、ロードはにこにこと笑っているだけで事態は一行に変わらない。
「アルヴァ、遊ぼうよー♪」
その歪んだ笑顔が、ティキ・ミックのそれと重なった。
「お前の相手はオレさ…!」
「エクソシスト様!!!」
「もっちろんブックマンとも遊ぶよぉ?でもね?」
「僕、知ってるんだぁ」
「アルヴァのココロが誰よりも脆いって」
ズキン、と心臓に痛みが走る。身体中を焦燥感が駆け巡って思わず身じろぎをする。上手く思考が働かない、
「どのくらいで壊れちゃうかなぁ?僕、それが見てみたいんだぁ」
「きゃはっ!もしかして、暇つぶしにもならないかもぉ〜」
「やめろ!!!」
「動かないでよ、ブックマン」
ラビくんの険しい表情がこちらを見ているのが分かる。でも私は、目の前のロードの瞳から逃れることが出来ないでいた。今にも倒れてしまいそうな、そんな感覚。その瞳に吸い込まれてしまいそうで、とても綺麗で、儚げで、
「一緒に楽しもぉ?」
「…ぁ」
「「アルヴァ!!!!!」」
「班長!」
山積みの資料の向こう、あいつのデスクから声がした。アルヴァに頼んでいた資料はなんだったか、珍しく随分かかったようだがーーーーー
そこまで考えて、気がついた。
「!」
がたん!、と自分でも驚くほどの勢いで立ち上がる。書きかけの化学式も、山積みの資料も書類も、タップのくれたレモンソーダも全て床に散らばった。
「アルヴァ……!?」
山積みの資料の向こう、あいつのデスクにはただ無造作に書類が積まれているだけでどこにも人影はない。それはもう何週間も変わっていないことだった。
「り、リーバー班長?」
「びっくりした…どうしたんスか?」
班員たちの声で、我に返る。ーーそうだ、アルヴァがここにいるわけがない。理解した瞬間、立ちくらみがした。随分離れてしまった椅子を戻し、再び腰掛ける。
「いや…何でもない」
「もしかして、アルヴァの夢でも見てたんじゃないスかー?」
「班長ぉー寝るなんてずりぃっスよーー」
「ああ…、悪い」
苦笑いを返し、散らばったものたちを片付けているうちに、妙な動悸を感じた。さっきのは幻聴だった。ただの、夢だ。何度もそう言い聞かせるが、胸の辺りの不信感は収まる気配がなかった。
「班長…顔色悪いっスよ」
ジョニーの心配そうな声が降ってきた。それに苦笑いを返しながら、自分の異変を見ないふりするように書類に目を落とした。
「大したことないから気にすんな」
無意識に深いため息が零れる。アルヴァを信じてやれないなんて、情けない。あいつは必ず帰ってくる。そう、約束したんだから。
俺は必死に、ペンを走らせた。