彼らと共にテーブルに腰かけた私たちであったが、皆心中は穏やかではなかった。私たちの強張った顔は、ノアたちにはどう映るのだろうか。
「さて、やっとゆっくり話せるようになったな、少年」
ナフキンで口元を拭き、アレンくんと向き合った彼は待ちわびていたように笑った。それに対抗するかのように、アレンくんの眼差しは鋭い。
「話したいことってなんですか。ティキ・ミック卿。それとも【手癖の悪い孤児の流れもの】さん?」
「実はけっこー衝撃だったんだよね。その左腕、確かに壊したハズなんだけどな」
「壊せてなかったんでしょう?ここに在るんだから」
ぴん、と空気が張り詰めた。ティキ・ミックの飄々とした態度は変わらないが、この空気は【あの時】によく似ている。
「ロード。そろそろ少年から離れてくんない?」
「オレね、千年公の終焉のシナリオっての?遊び半分で参加してたんだけどさ。退治?本気でやんねェとなってのがわかったわ」
ふわりと何かが目の前を横切った。小さく風を切り、それは私の肩へ。リナリーちゃんの元へも飛んで行ったそれは、酷く妖艶に見えた。
「ティキ・ミック。僕もひとつ言っときたいんですが」
ぎり、とリナリーちゃんの肩でその蝶を捉えたアレンくんの瞳は強い光を含んでいた。私は、目の前で塵と化した蝶をぼんやりと眺めていた。
「これ以上…僕の仲間に手を掛けたら………僕は貴方を殺してしまうかもしれません」
テーブルの上でアレンくんがティキ・ミックとの距離を一気に近づけて行った。咥え煙草の彼はそれにも動じない。
「本当はそっちのお嬢ちゃんがいいんだけどなあ。…女泣かせるシュミはないからやめとくか」
瞬間彼の視線が私を捉えて、逃げられなくなった。びくりと私の意に反して肩が震え、それを見たティキ・ミックは口角を上げる。
「ラストダンスといこうぜ、少年」
方舟消滅は、もう目の前まで迫っていた。