声が聞こえた。


耳鳴りのように不快な声。でも、それは私のものに違いはない。どうして、口を開いてもいないのに声が聞こえるのか。どうして私のものなのか。そこにあるのは恐怖だけだ。


「アルヴァ!?」
「ぁ…」


開けた視界の中には、黒を背景にしたラビくんの顔。どうやら私は抱えられているらしく、いつか見た角度そのままだった。


「目が覚めたさ!」
「……ノア、は?扉は…、」


あれから私はどうなった?大事なところの記憶が欠落している。


「大丈夫です。ここはもう扉の向こうですよ」


薄く笑ったアレンくんと、目じりを濡らしたリナリーちゃん。それから、心配そうな顔をしたチャオジーさんと、少しだけ悲しそうな顔をしたラビくん。


「あ、…クロウリーさんは、」


身を捩ってみてもクロウリーさんの姿を捉えることが出来なかった。どこにいるんだろう。あれ、どうしたんだっけ、何でクロウリーさんがいないの…?


「クロウリーは、あの部屋で、戦っています」
「!!」
「クロちゃんは追いかけてくるさ」


みるみる目の前が暗くなるのが分かった。


「…何故、です……私を捨て置けばよかったじゃありませんか!!」


クロウリーさんがまだ、中にいるだって?こんなことになるなら何故、私を止めた。戦わせてくれなかった。私はどうせ役に立たない。死んでしまう。だから私を犠牲にすれば良かった。そうして進んでくれれば良かった。今までしてきたことと、同じように。重荷は捨て置いてくれたらよかった。



私たちエクソシストは、犠牲の上に立っているんだから。




「できませんよ」
「!?」
「捨て置くなんて、できません」
「っじゃあ何故「僕はクロウリーを信じています。捨て置いたんじゃない」


「必ず、全部守ってみせます」


その真っすぐなアレンくんの目を見て、いつかのように何も言えなくなる。黙って俯く自分が悔しくて、涙が出そうだ。ずるい。そんなの、もっと辛くなるだけ。全部守るなんてできっこない。できっこないのに、


「諦めないでください。アルヴァ」


今はアレンくんの、その強さが欲しい。


「教団へ帰りましょう。みんなで一緒に」
「リーバーさんが待ってます」


進むことを諦めて、ノアを道連れにしようとしたあの時。何も考えないようにした。自分のこともリーバーのことも、これからの未来のことも、全部。

でも、今考えたら……何て恐ろしいことをしようとしていたんだろうって。もう二度と、彼と会えなくなる道を私は選んだのだ。私の命よりも、何よりも大切な彼に、二度と…。


「……っアレ、ンく…」
「らしくねーさ、アルヴァ」
「…っ」


上から降ってきた優しい声色に、涙腺が緩む。


「これじゃ逆っしょ。いつもの冷静なアルヴァはどこ行ったんさ?」
「ラビく…ん」
「私も、信じるから……アルヴァ」
「リナリー、ちゃん…」


「いなくなるなんて……いやよ、アルヴァっ!!」


眉をひそめて、その大きな瞳に涙をたくさん溜めた彼女が、震える声で小さな悲鳴をあげた。

あの時、私に与えられた選択肢はあれしかないと確信があった。だからすぐに行動に移せたし、覚悟だってした。でも。


「申し訳、ありませんでした」


もっと冷静になれば、違う道が開けたのかもしれない。最善の策がいったい何だったのか。それは誰にも分からないけど。


「行きましょう、次の部屋へ」
「はい」
「おう」
「ッス!」
「…はい!」


アレンくんは、強い。今の私では力も、思考も、彼には及ばないだろう。でもせめて、皆さんの力になれれば。

誰一人かけることなく、教団へ帰るために。





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