足元にあった鍵がどんどん風に吸い込まれていく。恐らく、ラビくんが本物の鍵を探してくれているのだ。どこかで、ブックマンはその役職のために一度見たものを忘れることはないと聞いたことがある。これならきっと、次の扉もすぐに開く。三つの扉は全て。次は最後の扉だ。


「!ラビ」


アレンくんも、ラビくんもクロウリーさんも、戦闘力は私より群を抜いて高い。それに、センスもあるし状況判断能力も…、言うことなしだ。ノアの一族総出でここにいるわけではないだろうし、考えられるのは私を追い詰めたノアと、【ロード】とかいう扉を作り出す能力を持っているノア。その二人だけだろう。



なら、きっと大丈夫。



「アルヴァさん…血が…!!」
「…」


ぐるぐると出血箇所に布を巻きつけて応急処置をする。その上からもじんわりと滲んできた赤は見ないふりをした。立ちあがることさえ、ままならない。


「「どわぁぁああぁあっ」」
「「喰っちまえっ【ジャスデビの怨念ーん】!!」」
「アレンくんっ!クロウリー!!」




仕方がないことだった。そう、割り切るしかないのだ。どうしても私は、私の命を最優先にできなかった。




「リナリーさん!」





ここで生きて、約束を果たすことは……もう。





「来ちゃダメだリナリー!!」









できない。









「っアルヴァ…」
「……リナリー、チャオジーのところへ」


崩れ落ちる前の彼女を抱きとめて、静かに床におろしてやる。


「アルヴァ!?」
「リナリーさん!!」
「リナリーをお願い」
「え…」


後から追いかけてきた彼に託して、歩きだす。不思議と足取りはしっかりしていた。まだ読みたい本はたくさんあったのに。そんなことばかりが頭の中を支配していた。


「アルヴァ!どうしたの!?こっちを見てよ!!!」


その今にも泣き出してしまいそうな声を聞いて、思わず立ち止まる。俯いた視線の先にあったのは傷だらけの自分自身だった。



「…ごめんね」



「!!」



ゆらり、ゆらりと歩き出す。二人が捕らえられている目と鼻の先まで来ると、私は固く噤んだ口を開いた。


「ねぇ、あなた方」
「聞こえているのでしょう?」

「「「!?」」」


それは、他の誰でもないノアに向けて発した言葉だった。彼らの性格は、もう十分分かっている。これほど堂々とした挑発に、引っかからないわけがなかった。


「何だこの女」
「ヒヒッ!意味分かんねえ!ボロボロだ!」
「血だらけじゃ〜ん。マジ痛そ」


私の腕がひとりでに持ち上がったのを見て、すぐ近くに彼らがいるのだと確信する。姿は見えなくても、今ここに彼らはいて、私の腕を掴んでいるのだ。


「ヒッ!弟子ぃ〜聞こえるかぁ〜?」
「!?」
「ひとつ聞くけど、この女人質にとったらお前どうする?ヒッ」


ぐ、と胃の辺りに腕らしき力が周って、背中には確かに温もりがあった。こめかみには冷たい金属が当てられている。間違いなく銃口だろう。


「アルヴァ!!!」
「丁度いいや。吸血鬼のおっさんオレらの居場所わかるみたいだからさぁ」
「じゃあやっぱお前盾にしよっ!!ヒヒッ」



準備は整った。



「……盾なら得意ですよ」
「「あ?」」


全神経を集中させて、両手に力を込める。壊れそうな感覚の前で、それはあまりにも頼りなかったけれど、イノセンスは白く、神々しく輝きだした。


「滅罪ノ檻!!!!!」





瞬間、リーバーの悲しげな表情が脳裏に浮かんで、消えた。





「なんだコレ」
「ヒッ!真っ白!」
「離れろ…アルヴァから離れろっ!!」
「あー、それ無理」
「出れねえぞ!!ヒヒッ」


その言葉に、さらに解放の力を強める。ここで私が踏ん張れば、彼らは生き残れる。どうせ果たせぬ約束なら私は…、せめて彼の仲間のために……少しでも、リーバーが笑ってくれるように…。


「アルヴァ!?何を」
「アルヴァ!!!!」




「この二人…私が請け負いました……!!皆さんはラビくんが鍵を見つけ次第、次の部屋へ向かってください!!!」




ごめんなさい。





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