「「装填 青ボム!イッちまえクロス弟子―――!!」」


二人のノアは完全にアレンくんに的を絞ってしまったらしい。私たちのことはまるで眼中にない、と言った様子で銃を連射している。


「なんかこれって…オレら空気?」
「こちらから攻めるか…」
「あはは…」


ぼきぼきと指の骨を鳴らし始めたクロウリーさんたちは、アレンくんの元へ向かっていった。…血気盛んだなあ。


「装填 赤ボム!【灼熱の赤い惑星】!!」

「テメェらアレンばっかぁ――」
「狙ってんじゃねェ――!!!」


二人の大きな声が聞こえてすぐに、アレンくんに放たれた巨大な火の玉がノアたちの方へ戻っていく。これでノアは、少なからずダメージを受けるだろう。


「「白ボム!!」」


ぱん、と銃声らしい乾いた音が響いた。するとそれまで確かにそこに存在していた火の玉が、跡形もなく消えてしまった。最初から存在していなかったなんてあり得ない。でも、本当に何も、なくなった…!?


「消えた…?」
「は?どこ行った!?あの火の玉っ」
「アレンくん!」


慌ててアレンくんたちの元へ駆け寄るが、彼らにも何が起こったのか理解できなかったらしい。まさかこれも、あの二人の能力なのだろうか。だとしたら、また読めなくなった。


「…アルヴァ、彼らの能力の検討はつきますか?」
「…いえ」
「何だってんだ、ありゃ」
「!」


瞬間、銃を連射する音が響いた。ほぼ反射的に音のする方向へ体を向けたが、銃口は私たちにも、リナリーちゃんたちのところにも向いてはいなかった。標的になっていたのは、あのカボチャ。


「だぁーってろボケ!穴だらけの傘にすんぞ」
「クロスは江戸のどこ捜してもいなかったんだよ!このボロ傘が!!」
「!?」


ジャスデロの放った一節に、違和感を感じた。…クロス元帥が、江戸のどこにもいない…だって?


「クロス元帥は…まだ江戸に近づけていない、ということでしょうか?」
「でもちょめ助の言ってた【箱】っつのはこれのことだろ?」


【箱】…、【方舟】。恐らくはそういうことなのだろう。これを破壊することがクロス元帥の任務だ、というのなら…もしかして出られるかもしれない。彼には科学者としての才能だけでなく、魔導の力もあるのだろう。でなければアクマの改造などあり得ない。そんな彼の力があれば、もしかしたら…!


「…彼は一体どこに」


私は僅かな期待に全てを賭けていた。


「ついでにっ」
「「アイツにつけられた借金もコイツに払わせんだよ!!」」


その言葉に、私たちは目を丸くすることになる。


「しゃ…」
「借金…?」
「クロス元帥が…ノアに?」


よく…現状が把握できない。ノアと元帥は本来そういった関係だっただろうか。否、元帥たちが【ハート】であると考えられ、命を狙われていたはずだ。そして私たちはその護衛に来た。


「「そーだよ!あの野郎オレらに借金つけて逃げ回ってんだ!!」」


命を、狙われていた……はず、だが…。


「悪魔みてェなヤローだぜチクショー」
「締めて100ギニー!!キッチリ払ってもらうかんな弟子ぃぃ!!」
「ク、クロス元帥は…お金をたくさんお持ちなのでは?」


クロス元帥の人物像が、私が今まで色んなところで見聞きしていた情報とは大きく食い違っていることに気づいた。私は彼のことについて誤解していたようだ。…しかし、元帥はエクソシストとしても科学者としても偉大で、教団にも数々の発明を残しているし、中央からも一目置かれている存在だと聞いている。そんな…彼が、借金…?


「いんや…、色んなトコで借金してるらしいさ」
「む…、そういえば私も奴に金を…」
「そ、そうなんですか…」


人にはそれぞれの生き方がある、ということだろう。きっとそうだ。……た、例え浮浪者のような見た目だったとしても、私は彼を尊敬し続けるだろう!というか、尊敬し続けてみせる!!


「うおっアレンどうした?」
「100…。ひゃくぎにー…、ひゃく………」


アレンくんはすっかりショックを受けてしまったようで、座り込んで何やらぶつぶつと呟いていた。それを必死でラビくんが励まそうとしているが、聞く耳も持たないでいる様子。私も慌ててフォローにあたった。



「アアアレン!しっかりするさ!」
「アレンくん!大丈夫です。100ギニーくらいでしたら、すぐにでも私の家から用意出来ますから!」
「えぇえっ!?100ギニーくらいって……アルヴァの家って一体何なんさ!?」
「たかが100ギニーぽっち?あはは…」
「アアアアレン!!」


乾いた笑いを浮かべるアレンくんは、ゆらりと立ち上がったのだが…、その迫力というか、オーラというか、彼の纏う空気に圧倒されてしまった。私は幻覚でも見ているのだろうか。


「ら、ラビくん…私にはアレンくんの頭に角が…み、見えます…っ」
「オオオ、オレもさ」
「そんなはしたガネ、ツけられたくらいで何ですか!!!」
「はした金だぁぁっ!?」
「ぶっ殺すぞヒィ――!!」
「…ま、まあ確かに…たった100ギニー程度でしたら、それ程騒ぎ立てる必要はありませんね」


ノアたちの生活について深く介入する気はさらさらないが、あまり良い暮らしをしていないのだろうか。100ギニーも自分で工面できないなんて。


「もしかしてアルヴァって…いいとこのオジョウサマ?」
「いえ、そんなことはありませんよ?」
「それに…僕の師匠は悪魔みたいな人なんかじゃない…!」

「正真正銘の悪魔なんですよ!!師匠と関わるんならそれくらいの覚悟して行けってんだ――!!!」
「「ふざけんじゃねぇ―――っ」」


その言葉に、その場にいた皆が一瞬放心しかけたが、いの一番に冷静さを取り戻したノアの二人が、怒号と共に攻撃を仕掛けてきた。だが、アレンくんも負けてはいない。ここからはよく見えないが、彼らの懐に飛び込んでいったのが見えた。


「紫ボム!!」
「破壊ノ爪!!」


アレンくんの攻撃は、見事命中した。


「…やった」
「やーい!かかったなバァーカ!」
「!!」


完全に捕らえたと思っていた彼らの体。だが、様子がおかしい。まるで人形のように動かないし、シルエットが明らかに人間ではない。もしやあれは…、ニセモノ…?


「今度は一体…!?」
「な、なんだ!?」
「【騙しメガネ】」


デビットの優越に浸った声が聞こえる。しかし、その姿はどこにも捉えられず、方向さえも分からない。部屋中のどこを探しても、二人を見つけることが出来なかった。


「もうオレらの姿はお前らには見えねぇよーだ!ギャハハハハ」
「ち、どこ行きやがった!?」
「みんな床を見て!!」


リナリーちゃんの声に下を見れば、そこには辺り一面に全く同じ形状をした鍵で埋まっていた。こんなもの、先ほどまでは絶対になかった。じゃら、と足元で金属の音が鳴る。


「!!!」
「うわっ何スかこのカギの山!?いつの間にこんな…」
「全部…本物?幻じゃない」


そのいくつかを手に取ってみるが、それは通常の鍵そのものだった。なんら変わったことはない。重さも質感も、どれをとっても現実としか思えなかった。


「あれ…?この鍵…私達の持つ鍵とまったく同じ…」
「…しまった!アレン!オレらの鍵あるか!?」
「まさかこの中に…!?」


切迫したラビくんの問いかけに、そこにいた全員が固まった。これほど膨大な鍵の中に紛れてしまったというのなら、残された時間で探し出すことは確率的に言って不可能だ。ぞくり、と背筋に寒気が走る。


「な、無い!?ポケットから無くなってる!!」
「「ギャハハハハハ!!」」
「残念でしたぁ」
「大事な出口の鍵は隠れちゃったよ〜〜ヒヒッ!!」


四方から聞こえてくる彼らの笑い声を聞きながら、私たちは身を寄せ合って来る攻撃に備えた。先ほどまでとは何もかもが違う。見えるものも、感じる空気も、全てが異質だった。


「敵の姿も鍵もナシ…って、ヤバくねェ?」
「姿が見えないのは…辛いですね」
「このノアの能力…一体何なんだ!?」




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