「リーバー班長、リーバー班長」

「…」

「リーバー班長、髭伸びてますよーぷぷぷ」

「…」

「あ、あと白衣にインク跳ねてますよ。それ昨日のじゃん!きたな!」

「…」

「ねーリーバーはんち「だーー!うるせえ!」


昼間の科学班フロアに響き渡る怒鳴り声。ちなみにこれはいつものことである。主に私が飽きてくる11時あたりに多い。

「リーバー班長が怒った!きゃーこわーいころされるー!」

リーバー班長の怒った時の顔って面白い!班長は集中力が切れた私がこうして話しかけると、いつもこうして怒鳴るんだ。まったく。カルシウムが足りてないんだから!

まだお昼であるから、昨日もたっぷりと休養をとった私はすこぶる元気!それに引き換え班長は、徹夜明けであるからいつも疲れている顔がさらに疲れている様子。沸点もいつもよりいくらか低い様子である。

私はまだぴっちぴちの16歳であるから、この科学班の中で唯一、黒の教団で定められている労働基準法で守られる存在である!つまり、残業とは無縁の健康的な生活を送ることができるのだ!

「…頼むから静かにしてろ」
「えーーー!あ、リーバー班長、甘いものって好きですか?私は大好きです」
「仕事しろ!!」

班長は恐らく、少しでも休憩を取るため仕事を早く終わらせたいんだろう。まったく、そんなに仕事ばっかりしてるから婦長さんに怒られちゃうんですよ!

一向に仕事を始めない私の方を、じとーっと睨んでいた班長は、深々とため息を吐きながら私のデスクへ近づいてきた。とうとう喧嘩か!と思いきや、ポケットをまさぐっている。

な、なんだろう…。私は班長の突然の行動に興味津々である!挙動に合わせて何度もまばたきをしながら、班長が口を開くのをじっと待っていた。

「ほれ、キャンディー」

取り出したのは、透明な包み紙に包まれている黄色いまんまるキャンディー。

「それやるから仕事しろ」

班長がこんなもの持ってるなんて、意外。でも色からして、班長がいつも飲んでいるレモンソーダ味なのかな。好きだなあ、レモン。

「…私、キャンディー嫌いです」
「は」
「チョコレートがいい」
「んなもんあるか」
「大体、キャンディーで釣ろうなんて子供じゃないんだから…」
「十分子供だろ!」

文句言うなら返せ!なんて班長は年甲斐もなく騒いでる。まったくもう。仕方がないから食べてあげるけどさ。

「食ってんじゃないか!」
「うるさいですよ、もう。みんなお仕事してるんだから、しー」

口元に人差し指を当てて、嫌な顔をしてあげたら、班長は私よりももっともっと嫌そうな顔をしていた。やっぱり班長っておもしろーい。

「あ、お昼ご飯の時間です班長!」
「…ああ、お前はもう行ってこい」
「班長も行きましょう!先に食堂に着いた方が勝ち!よーいどんっ!」

肝心なのはスタートダッシュ!飛び出そうと思ったら、足元に落ちていた資料を思いっきり踏んでしまった。つるん、と見事に足を滑らせた私の体は、後ろにバランスを崩していく。


「お、っと」


あたたかい感覚が、背中に。バランスを崩した私を支えてくれたのは、班長だった。

背中を強く打つのは免れないと思ったのに、意外にも逞しい腕が私を支えてくれている。…驚いたからだろうか。ばっくんばっくん心臓が震えて、ぶわっと顔が熱くなる。

「ば、っか…!危ないだろうが!」
「ごめん、なさい…」

いつも遠くから聞いてる声が、すぐ近くから聞こえて、なんだかぞくぞくした。

「わー!離せ離れろ変態はんちょー!」
「な、お前…!」

ばたばた暴れたら班長はその手を離してくれた。何よ何なの何だこれ!

「班長私に何かしたでしょう!!」
「まったく意味が分からねえ!!」
「ああ、もう、だめ!」

私はいてもたってもいられなくなって、今度こそフロアをダッシュで駆け抜けた。

「おい、名前!」

「班長と話してるとどきどき心臓がうるさくて、恥ずかしくなっちゃうの!!もう私に話しかけないでください!!!」


恋は突然に

(それって…)
(ああ、もう!バカ班長!)


労働基準法は完全捏造です


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