年中美容やらダイエットやらに忙しい。流行に敏感で、弱点は限定品。そして輪の中で同調しない者は白い目で見られることになる。
これが、オレの今までの人生で学んできた《オンナ》だ。
「とりあえず牛タンとロースと、上カルビ2人前!あとは…中ライスもお願いします!」
「かしこまりました」
ならばその定義から外れた、目の前でスープをうまそうに啜るこいつは、《オンナ》ではないのだろうか。否、数少ない例外の一人なのだろうか。
「はい、箸!」
「さんきゅー」
ほとんど出席していなかった講義。ほぼ単位は諦めていたが、名前がレジュメを貸してくれたおかげでなんとか助かった。そのお礼に、とメシを奢ることになったのだが。
「あ、あんまり食うなよ、オレ給料日まだ先なん「お待たせいたしましたー」
「わーい!」
き、聞こえてねえさ…。
オレの知ってる《オンナ》は、焼肉でこんなにはしゃがないし、そもそももっとおしゃれなものを食ってる。
プレートにちょこんと乗ったサラダだとか、ふわふわ卵のオムライスだとか、生クリームが山盛りに乗せられたパンケーキだとか、そういうきらきらしたものを好むはずだ。今日も、そういうところへ行くもんだと思っていたのに、着いたのはオレの行きつけの焼肉屋。
「いっただきまーすっ!」
いい具合に焼けた肉を、白飯に乗せて口を全開にするこいつの幸せそうな顔ったらもう。
《オンナ》ってもっとこう、男に気に入られるように着飾ったりするもんじゃないんさ?少なくとも大口開けて肉を頬張るなんてこと、しないんじゃなかったっけ。
「ん〜〜〜カルビ〜〜〜」
「名前、リスみてえさ」
「へ?」
「そんなに詰め込まなくても誰も取りゃしないって」
もぐもぐとしばらくの間は静かに咀嚼を続けていたようだが、その頬の膨らみはまったく減っていない。ぷくっと膨れた両頬が、なんだか愛らしく見えた。
…あれ、オレは控えめで《オンナ》らしい、ボンキュッボンのグラマラスなお姉さんが好みだったはずなんだけどな。
「らっへ、おいひいんらも」
たどたどしく紡がれた言葉と、へにゃりと笑って見せたその間抜けなリス顔。そのどれもが、必死になってダイエットに勤しむ《オンナ》よりも、よっぽど良いと思った。
「うまいか?」
「うん!ラビ、連れてきてくれてありがとう」
こんなに可愛らしい顔が見えるなら、将来名前がぽっちゃりになっても一緒にいたいかも。なんて、名前の口元についた茶色いタレを見ながら思うのだった。
いっぱい食べるキミがすき!