「…どういうことか、きちんと説明してもらえますか…神田…っ!」

神田と向かい合って座っているアレンが、悔しそうにそう呟いた。でも、神田は何も言わない。ただ静かに目を伏せて黙っていた。

「なんで…、相談してくれなかったんさ…!」

オレの声に、小さく息を吐いて神田はようやくオレたちの方を見た。

こいつとは長い付き合いだし、本当ならこんなことしたくない。それはアレンだって同じだろうし、神田も分かっているはずだった。でも。


どうしてもオレとアレンは納得いかなかった。


「お前たちに言う必要はない。そう判断したからだ」


吐き捨てるようにそう言った神田。その言葉に、オレたちはとうとう我慢ならなくなった。



「言う必要はない…だ?」





「んなわけないだろてめえゴラァァ!!!!よくもオレたちのアイドルを取りやがったなあァァん?」

「横から来てしれっと奪ってるんじゃないですよ。神田じゃ役不足ですとっとと消えてください」


「…だから言いたくなかったんだ」


いつもにこにこ愛嬌があって、ぱっちりとした瞳、すっと通った鼻筋、頬はいつも紅色に染まっていて、少し背の小さな女の子。少々照れ屋なところがあって、反応が面白いからかいがいのあるオレたちのアイドル、名前。

そんな名前が男と手を繋いで歩いているのが、目撃されたのだ。

今までどんな奴が現れても、オレとアレンで叩き潰してきた。悪い虫がつかないように、大事に大事にしてきた。そ れ な の に !


「…いつからですか」
「……半年前」

「半年!?!?半年もオレらを騙してたんさ!?ユウ!!!」

「最低ですね」


いつもならこの辺で六幻が飛んできそうなところだが、今日は違う。六幻よりも神ノ道化が飛んでくる勢いだ。それにオレだって、火判の一つでも仕掛けてやりたいくらいさ。

「…お前ら名前に嫌われたくねえなら、このことでぎゃーぎゃー騒ぐんじゃねえぞ」

「ハッ、彼氏ヅラですか。言っておきますけど、名前に最も相応しいのはこの僕です」

「おいおいちょっと待つさ。そこは常識的に考えてオレっしょ。ユウもアレンもまだまだ…」

「…だからもう俺が付き合ってるって言ってんだろ」

誰一人として譲らずにばちばちと火花を散らしたまま、早一時間。オレらに黙っていたということから下手に出ていた神田も、だんだんヒートアップしてきた。オレとしては好都合さ。


「それじゃあ誰が名前に相応しいか、勝負しましょう」
「望むところさ」
「負ける気がしねえな」


それぞれの獲物に手をかけて、談話室は戦場へと早変わり。こうなっちまえば、力づくで名前を奪えるチャンスさ!



「あ、神田!」



殺伐とした重々しい空気の中に響いた鈴のような声。愛らしいその音は、軽やかにオレの耳に入ってじんわりと染み込んだ。

嗚呼、オレが名前を呼ばれたわけでもないのに、何故こんなにも心が温かくなるのだろうか。さっきまでの闘志も、苛立ちも、声を聞いただけで全て何処かへ飛んで行ってしまった。今はもうこの胸の内には、ほわほわとした温もりが漂うのみ。なんて可愛いんだろう…!


「みんなで何してたの?」
「…ああ、バレた」
「えっ!…は、恥ずかしいから内緒にしてたのに…」


リンゴのように染まってしまった頬を両手で抑えて、慌てる名前は今まで見た中で一番可愛かった。

神よ。こんなところに天使が降りてきてるさ。いや、こんなにオレらを虜にするなんてもしかして小悪魔?


「わ、私これから神田と一緒に仲良く頑張るので、二人とも応援してね!」


「「ええもちろん」」


可愛いは正義



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