story 8~小さなSOS~



「なあ、杏凛。そろそろ機嫌なおせよ。父さんや姉さん、困ってるだろ。」
「あら…、私別に怒ってないわ。」
「いや、怒ってるだろ…、どうしたんだよ最近。」












優しく問いかけてみるも、杏凛は話そうともせずただ窓の外に視線を向けるばかり。
ここ最近、父さんへの反抗心がより一層増したのか口を聞かなくなるどころか全てのレッスンを投げたし、姉さんを冷たくあしらい避け始め、メイドに当たり散らす杏凛はどう考えてもおかしい。
面倒事が嫌いな杏凛は、勉強以外では滅多に大きな問題を起こさなかった、先生方と喧嘩はしていたけれど、それくらいだった。

それが、なんの前触れもなく突然変わった。
心配するなという方が無理な話で、でも馬鹿な俺には杏凛が何を考えているのか全くわからない。











「話してくれなきゃ、分かんないだろ。」











話しかけてみても、こっちを向こうとしない杏凛。
その背中は、とても寂しそうに見えた。

あの時、ボロボロの部屋に横たわっていた時の杏凛の姿を思い出し、怖くなった。







「…ねえ、隼人。」












長い間、沈黙を作ったあと。
ゆっくりと俺の名前を呼んだ杏凛。
俺は杏凛の向かい側に座り、顔をのぞきこんだ。












「どうした?」
「…ねえ、もし、もしよ。私と隼人が離れ離れにならなくちゃ行けなくなった時、どうする?」













凄く、酷く、怯えたように、絞り出すように話す杏凛。
微かに震える手、潤んだ瞳。
何ともないように振舞っているけれど、今にも泣き出しそうなその姿に、思わず杏凛を抱きしめた。











「…そんなの、イヤだ。ずっと一緒だ、この間も約束したじゃないか。」
「…そう、ね。そうよね。」
「…それに、杏凛は俺1人置いていかないだろ?」
「…うん、いかない。」
「俺も杏凛を置いては行かない、だから離れ離れになるなんて、有り得ないんだよ。」













まるで塞き止めていたダムが崩壊したように、次々に溢れてくる杏凛の涙。
何で、そんなことを聞いてきたのかは分からない。
でも、杏凛の手をこれから何があっても離さないと心に誓った。
俺たちは、たった2人の兄妹、
同じ日に生まれた、かけがえの無い兄妹。













「…私、行かないわ。隼人を置いてなんて、いかない。」













暫くして、泣き止んだ杏凛はなにか決意を固めたようにして俺に微笑んだ。

久しぶりに、杏凛の笑顔を見た気がする。

その事にも、俺は本当にホッとしたんだ。





























杏凛の想いなんて、知りもしないで。









story 8~小さなSOS~




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