story 11〜絶望の底〜



酷い、酷い、酷い!!!
世界はなんて残酷なんだろう…?
信じれるのは隼人だけだと思っていた、なのに、その隼人も私のことを裏切るだなんて!!











「っく…、ひっく、」










溢れて止まらない、暗く深い闇のような悲しみ。
零れ出す涙はとても透明なのに、思いはどす黒く澱んでいる。












「…どこへ向かいましょうか、アンリ様」











絶望に明け暮れていた時だった。
モニカの些細な一言で、私はまたどん底へと落とされた。

これから、どうする…?
行く宛がなく、目的もない。
ただ、ただお父様の手が届かない世界へ行きたかった。
お父様のために生きるのはゴメンだ、お父様の言われるがままに進むのは嫌だ。
…では、どうする?











「…お母様に、会いたい。」











ぽつり、こぼした言葉。
ずっと言葉にしなかった思い、お母様に会いたい。
幼い頃の記憶の片隅にある、美しいお母様。

優しいピアノの旋律だけが、私の心の支えだった。











「モニカ、探すのよ…、お母様を。」
「………アンリ様、それは、」















モニカに言えば、頷いてくれると思った。
私の言うことをなんでも聞いてくれるモニカ、この世界でたった一人の私の理解者。

いつもなら直ぐに笑ってなんでも聞いてくれた。
なのに、今日のモニカはどこか悲しげに瞳を揺らしていた。














「モニカ…?どうしたの?」
「…アンリ様、アンリ様の、お母様は、」













今までに見たことのないくらい、悲痛な表情を浮かべるモニカに、不安が襲う。
モニカの頬に手を添え、顔色を伺おうとすれば、絞り出すように言葉を繋ぐモニカ。
ゆっくり、ゆっくりと吐き出す言葉に、その続きを聞いてはいけないと本能が叫ぶ。
けれど、目をそらせない、そらしてはいけないと、また本能が叫ぶのだ。
次第に手が震える、モニカが大きく息を吸いこんだ時だった。













「う゛お゛お゛お゛ぃぃぃぃい゛!!!!!見つけたぞォ…!お前がアンリだなァ!!!!!」











モニカの声をかき消すように、鼓膜が敗れるのではないかと言うくらいのバカでかい声が私たちに向けられる。

そちらを見やれば、朝日に照らされキラキラと輝く銀髪の青年。
しかしその髪とは違い、どす黒いオーラを背負っていた。












「…!何者だ貴様!」
「何者だァ…?人に名を名乗るなら、自分から名乗るってもんだろうがああああああああぁぁぁ!!!!」











私を抱え、身構えるモニカに、これまた鼓膜が破れそうなくらいのバカでかい声で返事が返ってくる。

アイツの狙いは、私。
いったい何の為に?なんの目的で?













「う゛お゛お゛ぉぉぉぉぉい゛!!!そこのガキ、アンリだなぁぁぁ!!!うちのボスがテメェを1秒でも早く連れて来いってうるせぇんだァ…、大人しく来てもらうぞォ…。」
「い、いやよ!何なのよ!!!何が目的なの!?私はもう家を出たわ…、お金が欲しいなら残念ね!!私はなんの役にも立たない!!!」














身代金目的の誘拐かもしれない、過去にも何度かあった。
その全てはモニカによって未然に防げていたけれど、この銀髪の人は、強い。

ただならぬオーラを肌でひしひしと感じる。
それでもこんな口がきけるのは、きっと私のプライドだろう。

強く強く殺気を込めて、相手を睨みつける。
そんな私を見て、銀髪はにやりと笑った。











「イイ…、イイぞぉ…、その瞳こそボスの求めていたものだァ…!黙って俺について来い、お前が生まれてからずっと抱いていた疑問、全部解き明かされる時が来たんだァ…、お前の母親…ラヴィーナのことも、だァ…!!」












ぴくり、

銀髪の口から出た母の名に、思わず肩を震わせる。
今まさに会いたいと思っていた相手、この人について行けば会えるの…?
でもどうして、お母様はこんな奴のところにいるの?

ここ最近、ショックなことが多すぎたせいか、頭はパンク寸前だ。
でも、お母様に会えるなら、会えるというなら…










「ダメです、アンリ様!!あいつの言うことなんて、デタラメです!耳を貸してはいけません…っ!!!」
「…モニカ、命令よ、彼について行って。」
「アンリ様…!!!」
「私の命令が聞けないの!!??」













今迄にないくらい、ヒステリックな叫びをあげる。
そんな私を見かねてか、モニカは長い沈黙を置いた後に、静かに「かしこまりました。」と呟いたのだった。











「話は纏まったようだなァ…、着いてこい。近くにジェット機を待たせてある。」
「…本当に、お母様に、お母様に、」
「ああ、話してやるさ、本当の事をな。」













私はこの時、気づいていなかった。
うまく噛み合っていない会話に。
モニカの酷く辛そうな視線に。

この時、ちゃんと考えていれたなら、少しは違った未来があったのかしら…?












story 11〜絶望の底〜






(でも、どうでもよかった。だってもう、私は絶望のどん底にいるんだもの。)




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