story 10~失われた色~






「ねぇ、隼人。二人でこの家を出よう。」











朝、唐突に杏凛はそう言った。
起きて顔を洗おうとした時だった、明らかに様子がおかしい杏凛は俺を見つけるや否や、なにかにひどく怯えるように、俺にすがり付くようにそう言ってきたのだ。










「な、何言ってるんだよ!」
「私は本気よ、今すぐ出よう…、理由は行きながら話すから。」












いつも、少しすましたようにお喋りをする杏凛が余裕が無いのか焦った様子で俺の服をつかむ。
その瞳は絶望に染まっていて、寝不足なのか顔色も悪い。











「落ち着けよ!そんなの、父さんが許すわけないだろ!」
「そのお父様から今すぐ離れるの!じゃないと、じゃないと私たち離れ離れよ!!」
「何言ってるんだよ…、ここ最近ほんと、お前おかしいぞ!!」










宥めようとするも、杏凛はさらに声を荒らげて俺を引っ張っていこうとした。
俺は正直、限界だった。

ずっと父さんと杏凛のあいだに挟まれて、居心地の悪い時間を過ごしてきた。
杏凛が何にそんなに怯え、どうして父さんを毛嫌いするのか、全くわからない。

聞いても答えてくれるわけでもなく、ひとりで勝手に抱え込んで、悩んで…。
何も打ち明けてくれないのに、今度は2人で家を出よう!?
そんな、俺達の歳で家を出てどうなるんだ、どうやって生きていくんだよ…。

そんな思い出いっぱいいっぱいになり、その手を思わず振り払った。
初めて、杏凛に反抗した。












「隼人は、私と離れ離れになってもいいの…?」












絶望に染まりきっていた瞳はさらに深く闇に落ちたように見開かれる。
その大きな瞳に吸い込まれてしまいそうだ…。

双子で、同じ日に生まれて、俺の方が先に生まれたのに、才能を持っているのは杏凛の方だった。
父さんは杏凛にあとを継がせるつもりで、杏凛にたくさんの事を教えようといろんなパーティー会場にもたくさん連れて行っていた。
俺にはないものを沢山持っているくせに…、何がそんなに不満なんだよ!!!!











「勝手にしろよ!そうやって、ワガママばっかり…、父さんたちの気持ちも考えろよ!」
「…っっっ!!!!」










思わず、きつく怒鳴ってしまった。

杏凛はその瞳からぽろりと一粒涙をこぼした。

その瞬間、ハッと我に返り、言いすぎたか、と駆け寄ろうとした時だった。













「…っっっ、モニカ!もういい!私をここから連れ出して!!!!」
「はい、お嬢様。」













音もなく、突然現れたのは杏凛専属のメイド、モニカ。

差し伸べようとした手は、モニカにピシャリと叩かれ手の甲が赤くじんじんとしている。










「ご無礼をお許しください、隼人様。では、失礼致します。」
「ま、待てよ!!!杏凛をどこに連れていくんだ!!!」









ひょいと、杏凛を抱きかかえその場を去ろうとするモニカを急いで止めようとする。
けれど、今まで感じたこともないようなモニカのさっきをビリビリと感じ、手のひらが宙をつかむ。











「…アンリ様のご命令ですから。」











そう、一言残し、モニカは杏凛を連れて去っていった。

その後、杏凛が戻ってくることは二度となかった。









story 10~失われた色~



……To be continued




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