story 5~最愛の妹~


それは、ある日突然の出来事だった。











「なっ…!何だよ、これ!!」










杏凛の部屋の中はひっくり返され、カーテンはズタボロ、家具はめちゃくちゃに切り刻まれていた。

荒れ果てたその部屋の中央には少し小さくなった洋服にお気に入りのぬいぐるみ、オルゴールなど、杏凛が大切にしていたものが綺麗に積まれていた。
そして、その傍に横たわる杏凛。

隼人は一目散に杏凛に駆け寄り、杏凛を抱き上げた。











「杏凛!杏凛!!どうしたんだ、何があった!?」
「…ああ、隼人。」










虚ろな瞳で隼人を見上げるが、起き上がろうと言う気は無いらしくそのまま体を預けたままだ。
着ている服もボロボロで、腕にはひっかかれた跡もある。
隼人は心配でならないと、優しく頬を撫で抱き寄せた。











「誰が、誰がこんなこと!!!」
「……私よ。………全部私がやったの。」
「えっ!!」









ぽつり、ぽつりと話し出す杏凛。












「…知ってしまったの、お父様の秘密。ふふふ、知らない方が幸せだったかもしれないのにね。」











口元だけ歪ませて笑う杏凛、だがその瞳には明らかな殺意も混ざっていた。
父親に対して、とてつもない反抗心を持っていたのは知っていたが、こんなになった杏凛を隼人は初めて見る。
ゾクリ、と背筋が凍る。

杏凛はゆっくりと、手を隼人の頬に伸ばし、撫でた。
その手は恐ろしく冷たく、そして今にも壊れてしまいそうなくらい華奢だった。










「…ねえ、隼人。…………お父様と私、どっちが好き?」
「えっ…?」











唐突な杏凛の質問に、隼人は戸惑う。
いつもは明るく元気で、お転婆な杏凛が、人を殺してしまいそうな眼差しで自分を見つめているのだ。
きっと、この質問の答えを間違えば、この冷たく華奢な手で自分は息の根を止められてしまうのだろう。

だが、難しい選択だった。
自分にとっては父も杏凛も大切な家族なのだから、どちらかを選べと言われたらやはり悩んでしまう。

けれど、自分の素直な言葉を、杏凛は待ってるわけじゃないんだろうなって、気づいた。











「…杏凛が一番大切、決まってるだろ。」












精一杯、杏凛には及ばないながらにも知恵を振り絞り、杏凛が一番求めているであろう答えを返した。
すると杏凛は、悲しそうに顔を歪めては隼人に抱きついた。












「う、ん。うん。私も、隼人がいればそれでいい。それだけでいい…っ!!」










ぐすぐすと、鼻を啜りながら泣きじゃくる杏凛は、今まで大人ぶっているのが嘘なくらい年相応に見えた。

隼人は優しく抱きしめ、杏凛が泣き止むまで頭を撫でた。

ふと、目に付いたのは綺麗に並べられた杏凛の宝物の中でも一番輝いている、貝殻のネックレスだった。
…あれは、何だろうか。
知っている様な気がする、でもいくら思い返しても記憶の中にあのネックレスは出てこない。

まあいいか、と。
記憶の片隅へと追いやった。











「…ごめんなさい、取り乱してしまって。」
「ううん。とりあえず、部屋を片付けようか。」
「…うん、」











最愛の妹、世界にたった一人しかいない双子の妹。
俺達はいつも一緒だった。
それはこれからもずっと変わらない。
お前が泣くなら受け止めてやる、お前が悲しいのなら慰めてやる、お前が寒いのなら温めてやる。
だって、一人しかいない自分の半身だから。










story 5~最愛の妹~




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