story 9~不幸の手紙~



深夜2時。
月のない夜の事だった。

杏凛はこっそり寝室を抜け出し、ある場所へと向かっていた。

見回りの使用人の目をかいくぐり、影から影へと身を移す。
この銀髪は暗闇の中でも目立つため、黒いフードを被ってただひたすらに目的地へと向かった。


先日、メイド達から聞いた情報を確かめるために。












「…アンリ様は、ボンゴレの次期当主とも言われているご子息の目に留まり、これからのボンゴレを繁栄させるべく是非にと、ボンゴレボスから旦那様にお手紙が届いたそうです。」










この話が本当ならば、必ずどこかにその手紙がある。
そしてソレを保管するならば、絶対にココだと杏凛は踏んでいた。











「…そんなの、そんなのある筈ないわ、デタラメよ。」










そう口には出してみるもののまだ杏凛は5歳。
抱え切れないほどの不安に、ここ数日間押しつぶされてしまいそうだった。

だって、そのことが真実ならば自分はファミリーのためにボンゴレに売られることになるのだから。

あのマフィア界の頂点ともいえるボンゴレから声がかかったのだ、たかだか富豪マフィアの娘を次期ボス候補が嫁に欲しいだなんて…、父からしたらきっと名誉なことだろう。

…けれど、娘の自分としては、やはり断ってほしいのだ。
そんな偉大なボンゴレに私を1人送り出すだなんて…、最愛の隼人と離れ離れに、させるなんて。

思い詰めた結果、抑え込めなかったストレスを吐き出すために酷く家族や周りのメイドに当たり散らしてしまった。

あんなに敬愛していた姉にも、嫉妬してしまいうまく顔を合わせることも出来なかった。


だが先日の隼人の言葉でやっと、その手紙を探す勇気が出たのだ。
もし見つけてしまったとしても、隼人は自分を必要としてくれる…、引き止めてくれると信じて。











「お父様は隼人のお願いなら、聞いてくれるはず。………お母様と同じピアノを弾く、隼人が、大好きだか、ら。」














思考を巡らして、足をピタリと止める。




遠い遠い記憶の中にある美しい旋律と、美しいその横顔。
今も記憶の中に焼き付いて離れない、最愛の母。
どれだけ練習しても、お母様のピアノには辿り着けなかった、けど隼人は違う。
…隼人は、いとも簡単にたどり着いてしまった。

そんな、お母様と同じピアノを弾く隼人のことをお父様がそれは大切に大切にしていることを知っている。
まるで、腫れ物を触るように…。

そして、素直で笑顔の愛らしい、聞き分けのいい姉をこよなく愛していることも知っている、たくさんの愛情をかけていることも…。

それに比べ、私はとても素直ではない。
お父様が私にいつまでも隠し事をしている限り、私はお父様を許すことは無いと、意地を張り続けて随分と立つ。
けれど、それでもお父様に喜んでもらいたい一心で勉強も自主的に取り組み誰にも文句を言わせないほどの知識を身につけたつもりだし、言われた通り護身術も身につけてきた、役に立てばと思い大人の会話に聞き耳を立て、この社会で生き残っていくすべも学んだ。

なのに…、父はいつまでたってもその瞳の奥に怯えた色を揺らめかせ、私を遠ざける。
何がそんなに怖いのか?私の何がダメなのか…?


…私は、いらない子なのだろうか。


思考はいらぬところまで回り、首を絞められているようだ。
何度も何度も不安と焦燥に潰されそうになりながら、今にも泣き出しそうになりながら、辿りついたのは、父の書斎だ。

物音も足音も立てずに、そっと忍び込む。

真っ先に向かったのは、本棚のしたから2番目の列、ワインレッドの背表紙の本。
ペラペラとめくると中から出てきたのは小さな鍵。

そっと本棚に本をなおし、机の鍵穴に差し込む。






──ああ、神さま、どうかどうか、ありませんように。──







そう、祈りを込めて開けた引き出し。














「ああ、ああ、ああ…!!」










一番上にあった、真新しい一通の手紙。
それは、紛れも無くボンゴレからの手紙だった。














「う、そ。うそ、うそ…、」













封筒の中にあったのは、自分と時期ボンゴレボス候補ザンザスとの婚約、そして結婚を双方認めた事に関しての契約書。
間違いなく、自分の父のサインがそこにあった。




杏凛は、その場にぺたりと座り込み、ゆっくりと引き出しを閉めた。

















「…やっぱり、私は、いらないんだ。」












ハハハッ


乾いた笑いがただ、静かな書斎に響いた。







story 9~不幸の手紙~










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