第一章〜友情の足枷〜
29page 生きたい
「オイオイ冗談きついぜ!山本!!」
暫くぼんやりしていると、大勢のギャラリーに囲まれていた。
クラスメイトたちは口々に「やめて」だの「考え直せ」だのうるさい。
…お前らに、何がわかるっていうんだ。
「へへっ、わりーけどそーでもないんだ。女神にも…、野球の神さんにまでも見放されちまったオレにはなーんにも残ってないんでね。」
ちらりと見渡すも、華鈴の姿はそこにはない。
…ははっ、こんな時でも華鈴を探してる自分に嫌気がさす。
こんなカッコ悪ぃとこ、見られても俺が困るだけなのにな。
…でもやっぱ、最後にアイツに会いたかったな。
「ははっ、情ねぇ。」
こんなカッコ悪ぃ姿見られる前に、さっさとオサラバしちまおう。
そう、一歩踏み出そうとした時だった。
「やめてくれーっ!!うっわっ、わわ!!!」
ドタン!
人混みをかき分けて、倒れ込むようにツナが現れた。
「ツナ…、止めにきたならムダだぜ。お前なら、ミンナからダメツナって呼ばれてるお前なら俺の気持ちわかるだろ…。」
ああ、情ねぇ、情ねぇ、ツナを見て溢れ出てくる感情は妬みとイヤミばっかだ。
「何やってもうまくいかねー、もがいても前に進めねー…、それどころか、俺は…、超えちゃいけねぇラインまで超えちまったんだ。…いっそ、死んじまった方がマシだって。」
「え、あの…、……………………ごめん、分かんないよ。俺と山本は、違うから。」
「っっ!!!!!」
抑えきれない感情を、思うまま口にして吐き出した。
これで、少しは収まるかと思った、この苛立ちも、不安も。
だが、帰ってきた言葉は俺の燻っていた怒りに火をつけた。
「さすが最近活躍めざましいツナ様だぜ…!俺とは違って優等生ってわけだ!!」
俺はそんな簡単に割り切れねぇ、華鈴との立ち位置も雲泥の差だ。
やっぱツナは俺のこと見下していたのか…!!!
怒りで我を忘れそうだ…。
「ちっ、ちがうんだ!!ダメな奴だからだよ…!!!正直に言う…、オレ山本みたいになにかに一生懸命打ち込んだことないんだ…、"努力"とか調子のいいこと言ったけど、本当は何もしてないんだ…、昨日の言葉は嘘だったんだ、ゴメン!!!」
真っ青な顔してツナは言った、今にも泣き出しそうなほど、焦った顔で。
周りの目も気にしないでツナはありのままを話してくれた。
「だから俺は山本と違って死ぬほど悔しいとか、挫折して死にたいとか…、そんなすごいこと思ったことなくて…。」
すごい?こんな俺を?みっともないじゃなく?
あの華鈴と話せるツナが、俺のことをすごいって本気で言ってるのか?
「むしろ死ぬ時になって後悔しちまうような情けないやつなんだ…、どうせ死ぬんだったら死ぬ気でやっておけばよかったって。」
死ぬ気で…、こいつは毎回毎回、そうやって魂燃やして頑張ってるってことか。
…そうか、こいつはそうやって、今までも何度も苦難を乗り越えてきたんだな。
それに比べて、俺は…
また、卑屈で情ないどす黒い感情に飲まれかけた時だった。
「こんなことで死ぬの、勿体ないなって。」
勿体ない。
ああ、そうだ、俺、まだ華鈴にゴメンって言えてねぇ。
無理に話しかけてゴメン、嫌がってるのにしつこくしてゴメン、追い詰めてゴメン。
まだ俺は、謝ってねぇのに、逃げようとしたんだ。
1番最低な方法で逃げようとしたんだ。
勿体ねぇ、そりゃそうだ。
まだ死ねない、華鈴に謝ることも好きだってことも伝えてねぇで、死ぬなんて持ったいねぇ。
俺はまだ、生きたい。
「だからお前の気持ちは分からない…………、じゃ!!!!」
最後まで言い終わったと思ったら、ツナはすぐさま俺に背を向けた。
待てよツナ、俺お前にも謝んなきゃなんねぇのに、勝手に嫉妬して、お前にひどい事言っちまった。
まだまだ話したいことたくさんあるんだ……!!!!
「まてよ、ツナ!!!」
咄嗟に服を引っ張った。
何も、考えずに。
そしたらツナ、滑ってさ。
俺の方に転けて…、あ、そう言えばフェンスボロいんだっけ。
ガシャアアアン!!!!
ああ、俺、このまま死んじまうのか。
(グダグダしてるから、バチが当たったんかな)
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