第一章〜友情の足枷〜

25page 追い討ち



朝。
来て欲しくなかった朝。
いつも通り、朝練に間に合うように起きた俺は、ただただぼーっとするしか無かった。

とりあえず支度して、朝飯食って、学校に向かう。

こんな腕で朝練に顔だしてなんになるんだって話だけど、何もしないよりはマシだと思った。
俺の気持ちとは裏腹に、空はいい天気だった。













「…嫌になるなぁ。」












言葉に出すと、さらに体が気だるくなって、なかなか足が進まない。
あともう少しで学校なのに、情けなくって悔しくて恥ずかしくて、足が竦むんだ。

俺はこんなに弱かったのか。
こんなに情けないやつだったのか。
自分は強いと思ってた、なのにそれは一気に崩れ落ちた。

…こんな姿、華鈴には見せらんねぇや。

心で自分を笑った時だった。
















「何ブサイクな顔してるのさ、唯が遅いのが悪いんだろ。」
「い、いえ!その、はい。私が、悪いです…、違うんです。」
「…日本語喋ってくれる?言葉がめちゃくちゃなんだけど。」












ドクッ

大きく心臓が高鳴る。
息をするるのを忘れてしまいそうだった。

何だ、なんだ?目の前の光景は。

華鈴の後ろ姿と、見知らぬ学ランの男。
華鈴の前髪をかきあげるように頭に手を置くその男。
…華鈴の、少し泣いたような声。











「っっっっ!!!!!」











華鈴のその声色に思わず怒りがこみ上げる。
何泣かせてるんだ、何をしたんだ、華鈴に触るな!!!!
先程までの憂鬱な気分はどこへ行ったのか、すべては怒りで埋め尽くされていた。
少し距離があったが、ズンズンと歩みを進めて縮めていく。
あと数歩で追いつく…!その時、

…学ラン男と目が合った。

そいつは俺を見て、少し目を見開いたあと、ニタリと怪しく笑ったんだ。
その微笑みには恐ろしい殺気が混ざっているような、俺への当てつけのようにも感じられた。

その瞬間、華鈴の手を乱暴に掴み、ものすごいスピードで歩いていった。
慌てて追いかけた先は、俺の通う学校だった。











「…あんな奴、うちの学校にいたか?」










呆気に取られていると、その姿を見失った。
チッと、柄にもなく舌打ちをして足元にあった小石を蹴りあげた。
この苛立ちをどうしてくれよう、この収まりきらない不安をどうしてくれよう。
ガシガシと頭をかき、校門を潜った。











「…おはよ、山本。」

「っっっ!!!!」










ふいに、真横から聞こえた声。
あまりの気配のなさにびっくりし、目を見開いてその方向に向き直した。











「ちょ、なんて顔してんの。」
「あ、ああ、蝶原か…、はよ、」











そこには、いつも通り気だるそうにした蝶原の姿が。
少しほっと胸をなでおろし、軽く挨拶を返す。
蝶原は不思議そうにこっちを見ては「まあ、いっか。」と呟いた。
…?何がいいんだ?











「山本、あんたさ。華鈴さんから手を引いてくれない?」
「……………は?」











唐突に言われたその言葉。
いきなりの事で理解が追いつかず、間の抜けた声が出る。
そんな俺を見て、蝶原の視線が一気に鋭さを増した。
思わず背筋が凍りそうな、そんな視線。さっきの学ラン野郎とは又違う殺気のこもった視線だ。











「華鈴さんが迷惑がってるの、知ってるでしょ?」
「や、そう、だけどよ…。」











確かに、思い返せば俺はただただ一方的に華鈴に話しかけていた。
迷惑がられてるって、分かってたのに、でもいつかは仲良くなれるって信じて…。










「…傍から見たらそれ、ストーカーと一緒だからね。これ以上華鈴さんを困らせないで。」
「…っ!!!」











蝶原の言葉が、グサリと刺さる。
男嫌いの華鈴に、しつこく付きまとって追いかけ回して…、なんで気づかなかったんだ、俺。
何でいつかは仲良くなれるって思ったんだ、なんで俺は大丈夫って…












「…ははっ、俺、サイテーだな。」
「まあ、あんたの気持ちもわからんでも、」
「ごめんな、蝶原。言い難い事言わせちまって…、じゃあな。」













蝶原が、呼び止めた気がした。
けど、今の俺にはそんなことどうでも良くて、ただただ、消えてしまいたくて。

自分が犯した過ちを償う術を、いまの俺は持っていない。

無意識のうちに辿りついたのはあの日、華鈴を泣かせちまった屋上だった。










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(華鈴を思うだけで、こんなに胸が熱くなるのに
…、同時に張り裂けそうな痛みが襲うんだ。)


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