第一章〜友情の足枷〜

24page いつもの通学路




「唯、今日は教室に行くことを許可しない。僕の監視下にいるんだ。」











朝、目が覚めると唐突に恭弥さんに言われた言葉に、理解がなかなか追いつかないながらもコクリと頷いた。

事情はどうあれ、恭弥さんの言葉に逆らうことは出来ないから、頷くしか無いのだけれども…。

けれど、遂に教室に行くことも許されなくなってしまった。
ただただ普通に学生生活を送りたい一心で頑張ってきたのに、ここ最近は問題ばかり起こしてしまったからだろうか?
…蝶原さん、心配するだろうな。連絡を取りたいけれど、蝶原さんと連絡する術を私は持っていない。
携帯電話には恭弥さんと草壁さんの連絡先しか入っておらず、使うのも恭弥さんから掛かってきたものを私が取るだけ。
返そうと思っていたノート、どうしよう。そんなことを考えながら制服に袖を通す。

でも、山本くんに会う心配はないし、声をかけられたらどうしようって怯える心配もない。
そう考えると、お仕置きされることもほぼ無いわけで…、それに比べれば監視下でゆっくり勉強している方が安心かもしれないと、前向きに考える事にした。

身支度を済ませ、靴をはき、痛む身体を引きずるように玄関をくぐる。
すると、珍しく恭弥さんが待っていて下さり、私は慌てて駆け寄った。









「す、すみません、お待たせしました…。」
「全くだ、早く行くよ。」









すぐにスタスタと歩き始めてしまう恭弥さん。
私は置いていかれまいと必死に後ろをついていく。
…今日はどうされたのだろうか、一緒に登校するなんて本当に久しぶりだ。
1年半くらい前まではずっと一緒だった記憶があるけれど、最近それはパッタリとなくなってしまったように感じる。

目の前には、風に揺れる恭弥さんの黒い髪の毛、黒い学ラン、一年前まで見慣れてたはずの後ろ姿は随分大きくなっていた。
成長の差を感じながら、私は後ろをついていく。
…昔から、恭弥さんは黒を着ているイメージがある、お好きなのかな?

思い出すのは、今よりも幼い頃の後ろ姿。
その頃から私はいつも、恭弥さんの後ろをついて歩いていた。
置いていかれないように、必死に。
でも、置いていかれそうになると、恭弥さんは決まって立ち止まってくれた。
…その後、決まって手を差し伸べてくれたんだっけ。



…そんなことを思い返していると、ふと、歩がゆっくりになってしまう。
好奇心とは、恐ろしいもので、今でも恭弥さんは立ち止まって待ってくれるのだろうか?と淡い期待を抱かせる。
もしこれで、機嫌を損ねてしまったら痛い思いをするのは自分なのに、確かめずにはいられなかった。

徐々に開いていく、私と恭弥さんの距離。
ある一定の距離まで開くと…ほら、ピタリ、と立ち止まった恭弥さん。










「…何してるの、早くしなよ。」












振り返り、不機嫌そうに顔を歪める恭弥さん。
でも、立ち止まって待ってくれている。
…昔のように、私の事を待ってくれている…。

思わず涙が溢れ、膝から崩れ落ちそうになるのをこらえ、急いで駆け寄った。
そんな私を見て、恭弥さんはさらに顔を歪めて私の前髪をかきあげた。










「何ブサイクな顔してるのさ、唯が遅いのが悪いんだろ。」
「い、いえ!その、はい。私が、悪いです…、違うんです。」
「…日本語喋ってくれる?言葉がめちゃくちゃなんだけど。」









まだ少し早い時間の朝日が、前髪をかきあげられた視界をさらにクリアにする。
目の前には、ムスッとした恭弥さん。
…幼い頃と変わらない、恭弥さん。
私は溢れる涙の止め方が分からないまま、笑ってみせた。










「…変な顔。」
「あ、はは。すみません。」
「ほら、早く行くよ、間に合わない。」











ゴシゴシと目元を擦ると、ひったくる様な手つきで、私の手を握った恭弥さん。
そのままズンズンと進んでいって、真っ直ぐ並盛中学へと向かった。

…ああ、そうだった。
お仕置きさえなければ、恭弥さんはこうして、私を大切にしてくださる優しい人だった。
いつまでも変わらない、優しくて大きな手、私が大好きな手…。

…あれ?でも何で、私はお仕置きされるんだろう?
何で、他の人と話しちゃダメだったり、顔を見せては行けないんだろう。
そもそも、私はなんで恭弥さんのお傍に置かれているんだろう?
それは、何時からだったんだろう?

モヤモヤ、モヤモヤ、また頭の中に霧がかかったように思い出せない。
自分のものとして、そこにあるはずの記憶。
けれど、どんなに足掻いても霧が晴れる様子はなかった。

その事に引っ掛かりを感じ、不安をおぼえた。
…何か、嫌な予感がしてならないから。

…でも、今握られている手が暖かいから、やっぱり私はどうでも良くなったのだった。











24page いつもの通学路



(今がよければ、それでいい。過去なんて、どうでもいい。そうじゃなきゃ、私は……あれ?なんだっけ?)



prev- return -next



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -