第一章〜友情の足枷〜

22page 優しい友だち


毎日新たに咬み痕を残されているから、体育はずつと長袖長ズボンでしか参加出来ない。

ズキズキと痛むこの身体では、今日のハードル走には参加できそうになかった。
いつものように見学を申し出て、隅の方に座っているだけの体育。
皆でタイムを競い合って、お互いを高めあって…、いいなぁ、私もみんなみたいに…。

そんなことをボンヤリと考えては、フルフルと頭をふる。

いけない、こうして学校に通えているだけでも有難いんだ私は。
あの時、恭哉さんに助けて貰っていなかったら、私は今頃…。

…あれ、私、なんで恭哉さんに助けてもらったんだっけ?

また、自分の記憶のはずなのに霧がかかったように思い出せない。
でもスグにどうでも良くなるんだ、不思議だなぁ。

そんな事を考えていると、ハードルをしている女子たちが黄色い声を上げた。








「キャー!!武ぃー!!」

「素敵素敵!!!!またホームランだわー!!!」








反対側のグランドでは男子か野球をやっているらしい。

女子の注目の先には、山本くんがいた。

…ホント、常にみんなの注目の的で、みんなから愛されてる山本くん。
そんな彼が、何で私なんかに執着するのか、そんな理由はこれっぽっちも分からない。
こんなドがつくほどの真面目な格好をした私への好奇心?それとも独りでいる私が可哀想だから?
どっちにしろ、ほっといてくれたら私も幸せだし、山本くんも無駄な時間を過ごさずに済むのにな…。

山本くんが話しかけてくるようになってからだ、恭哉さんが異常な迄に私にお仕置きをするようになったのは。
それまでは、そんなに酷くなかった。
体育にも参加出来てたし、クラスの女子との会話ももう少し多い方だった。
山本くんが私に構うようになってから、山本くんに好意を抱く女子からよく妬まれては陰口を叩かれた。

本当に…、仲良くしようって思ってくれるのは凄くすごく有難いのだけれど、ありがた迷惑というか…、ああ、これ以上関わらないでくれないかなぁ…。

膝を抱えてため息を付けば、自分の嫌なところが沢山見えてきて、また自己嫌悪。

何が正しくて、何が悪いのかが、もう分からない、ただ私が、あの時恭哉さんを…、あれ、なんだっけ?





「華鈴さん、大丈夫?保健室行く?」

「あ…、蝶原さん。」







思考をぐるくる巡らせていると、心配そうに声をかけてくれた蝶原さん。

私は少し笑って見せた。








「大丈夫…、少し、考え事。」

「そう?ならいいんだけど。
もう終わるから、一緒に帰ろ!」









差し出された手に、嬉しさで心がきゅっとなる。

何だかんだで、入学してからずっと蝶原さんは私と仲良くしてくれる。
メガネを取ろうとしたりしてくるけど…、最近は嫌がる事はしないし、こうやって心配してくれたりする。
ほんとに、涙が出るほど嬉しいんだよ。








「ねぇ、華鈴さんっていっつも体育見学して、楽そうだよねー。」








立ち上がり、教室に戻ろうとした時だった。
先程まで山本くんで騒いでいた女子数人の中の1人が、じろりと私を睨んできた。

…ああ、またか。

ここの所、何かにつけて私に嫌がらせをしてくる人たちの一人だ。








「ここ最近、毎回体育見学してるけど、本当に体調悪いの?」

「…何アンタ、こんなに弱々しい姿見て嘘だとでも思ってんの?」

「蝶原さん…、」







庇うように立ちはだかってくれる蝶原さん。
私はただ口を紡いで、俯くしかできなくて。








「何、蝶原さんは華鈴さんの味方なの?だっておかしくない?この子だけ毎回…、先生も何も言わないし、えこひーきだよ、えこひーき。」

「それは本当に華鈴さんが体調悪いからだろ、元々体が弱いんだからしかたないじゃん。」

「どうだか。
男子の気を引くためにわざとそんなふうに振舞ってるんじゃないの?」








何気ない一言一言が心に突き刺さる。
もう慣れたと思っていたけど、やっぱり辛いものは辛い。

キュッと唇を噛み締めて、俯く。









「なに、黙り?良かったねー、蝶原さんっていう味方ができて…。
て言うか、見学しかしてないんだからハードルくらい片付けといてよねー、私たち忙しいから帰るね。」

「は?今回の片付けはあんた達の番でしょ?」

「華鈴さんは毎回してないんだから一回くらいいいでしょ?何なら蝶原さんが手伝ってあげたら?」









じゃあね、とだけ言い残してその子達は去っていった。

はぁ、と小さくため息をついて、ハードルに近寄る。








「ちょ、置いときなよ。どうせやらなくて怒られんのあの子達なんだから…」

「…ううん、いいの。だって毎回見学ばかりで何も出来てないのも事実だし…、蝶原さん先生に呼ばれてなかった?早く行かないと怒られちゃうよ?」

「ーーっもう!早く済ませてくるから、無理しちゃだめだからね!?」








腑に落ちない、そんな顔をしながら猛ダッシュで先生の元へと駆けていく蝶原さん。

その優しさにくすぐったさを感じながら、痛む傷を無視してハードルを片付けようとした。









「華鈴さん!」

「…っ!!!!あ、沢田、く…」









突然後ろから声をかけられ、思わずハードルを落としてしまう。

沢田くんも少しびっくりしてたけど、あたりを見渡して心配そうに声をかけてきた。









「な、なんで1人で片付けてんの?まだ体調悪いから、見学してたんでしょ?」

「あ、あの、その…」










沢田くんの視線が少し痛い。
普段は優しい沢田くんには珍しく、少し咎めるような言い方で私は気まずさに視線を泳がした。








「後、俺がやっとくから、華鈴さんは帰りなよ。」









思いもよらない言葉に、少し目を見開く。
少しぽかんと開いた口が動くが、うまく言葉が紡げない。










「えっ、で、でも…」

「いいから!この後、ほかの片付けも俺がやるし、これくらい増えても平気だから!」









少し困ったような顔をしながらも、優しく笑ってくれる沢田くん。

落ちていたハードルを拾って、私に帰るように促してくれる。
…ああ、やっぱりやさしいなぁ、沢田くんは。




「ごめん、ね。ありがとう…」








申し訳なく思いながらも、そのお言葉に甘えて帰ることにした。
軽く頭を下げて蝶原さんの元へと向かった。


ほわほわ、ほわほわ。
暖かい気持ちに包まれながら。














22page 優しい友だち









(…蝶原さんも、沢田くんも、優しい。嬉しい、な。)


prev- return -next



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -