第一章〜友情の足枷〜
21page 無意識の罪
ここ最近、平和とは程遠い日常を送っている俺、沢田綱吉。
そんな俺の生きがいといえば、もちろん京子ちゃんの笑顔を見ること…!
今日もニコニコ、可愛いなぁ…。
デレっと顔を緩ませては、今の状況に内心ため息をつく。
「だから、ダメツナはお前たちのチームにくれてやるって。」
「ヤダね!負けたくねーもん!」
この間のバレーの試合ではいいとこ見せれたけど、野球はやっぱりからっきしで。
どっちのチームにも入れてもらえない。
獄寺君はダイナマイトを仕入れに行ってて留守だ。
だからクラスメイトが何を言っても突っかかる人がいなくて助かるけど、クラスの邪魔者には変わりない。
チラリと女子のほうを見てみると、まだ体調がすぐれないのか長袖のジャージを着た華鈴さんが隅っこのほうで体育を見学していた。
ああ、どうせなら俺も見学してたいなぁ…。
そんな思いを抱いていると、思いもよらない声がかかったんだ。
「いーんじゃねえの?こっちに入れば。」
クラスの人気者、山本だ。
はじめて、はじめてジャンケン以外でジャンケン以外でチームに入れてもらえた…!
1年なのに野球部レギュラーで、クラスメイトからの信頼も厚い山本。
ファンクラブができるくらいモテモテで、俺とは正反対の人物。
そのことに浮かれて、野球頑張ってみようと思ったのもつかの間。
結果は俺のミスで負け…。
チームのみんなにはグランドのトンボかけを押し付けられる始末。
…さぼっちゃおうかな。
そんな考えが頭をよぎったが、ふと前を見るとハードルを一人で直している華鈴さんの姿が。
「華鈴さん!」
「…っ!!!!あ、沢田、く…」
いきなり話しかけたからか、持っていたハードルを落としてしまった華鈴さん。
俺はそれを全部拾うと、あたりを見渡した。
「な、なんで1人で片付けてんの?まだ体調悪いから、見学してたんでしょ?」
「あ、あの、その…」
俯いて言葉を濁す華鈴さんに、少し心が痛む。
押し付けられた…?華鈴さんは俺みたいに苛められてる様子は無かったけど。
とにかく、華鈴さんはまだ体調が万全じゃないんだから、こんな重たいもの持たせてられないよ!!
「後、俺がやっとくから、華鈴さんは帰りなよ。」
「えっ、で、でも…」
「いいから!この後、ほかの片付けも俺がやるし、これくらい増えても平気だから!」
本当はすぐ帰りたいけど、でも、女の子ひとりにさせるなんて、出来なくて。
華鈴さんは少し戸惑った様子で、視線を泳がせていたけど、申し訳なさそうに笑った。
「ごめん、ね。ありがとう…」
華鈴さんはぺこりと頭を下げてゆっくりと校舎へ帰っていった。
…女子にお礼言われたの、初めてかも。
少し浮かれ気分になりつつも、ハードルを直しに体育倉庫へ向かった。
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「はぁ、あとはトンボかけかぁ…。」
あらかたハードルを直し終わった俺はトンボを持ち、大きなグラウンドを見つめる。
正直、ハードルを片付けただけて疲れたし、その後のトンボかけなんてホント面倒くさいし。
「…これだけサボっちゃおうかな。」
さっきまでのやる気はどこへ行ったのか、広いグラウンドを見渡して大きくため息をつく。
少しオレンジ色に染まってきた空を見上げたら、さらにやる気は無くなった。
今日は先生達が忙しいからと部活はほとんど休みだ、グラウンドを使う生徒はいない。
だからこそ、最後に体育をしていた俺らのクラスがトンボがけをすることになったのだろうけど…。
けど、誰もいないし…。
そんな魔が差し、帰ろうとした時だった。
「助っ人参上〜!」
「や、山本!!!」
後ろに現れたのはトンボを持った山本。
もうとっくに帰ったと思ってた…!
「ごめん、さっきの試合オレのせいで…。
せっかくチームに入れてくれたのに。」
「気にすんなって、たかが体育じゃねーか!
頼むぜ、オレの注目株!」
2人でトンボ掛けをしながら、話していた時だった。
え、俺が、注目株…?
「最近おまえスゲーだろ?剣道の試合でも、球技大会でも…さ。
オレ、お前に赤マルチェックしてっから。」
「えっ!?」
自分とは正反対の、人気者で努力家な山本に、そんなふうに思ってもらえてるなんて…!!!
降下しかけていたテンションはまた調子に乗って上がり出す。
「いや、そんな…!」
「それにひきかえ、オレなんてバカの一つ覚えみたいに野球しかやってねーや。」
「な、何言ってんだよ!
山本はその野球がすごいんじゃないか!!」
「…それが、どーもうまくなくってさ。」
少し落ち込み気味にそう言う山本。
珍しいな、山本がこんなマイナスなこと言うなんて…。
「ここんとこ、いくら練習しても打率落ちっぱなしの守備乱れっぱなし。
このままじゃ野球始めて以来初のスタメン落ちだ。」
スランプ、かな…?
よく分かんないけど、調子がでないんだろうなぁ…。
それとなく聞きながらトンボをかけていると、山本はフッと俺を見た。
…その目は、どこかトゲトゲしさを帯びたようで、一瞬背筋を凍らせた。
「ツナ…、オレどうすりゃいい?」
「えぇ!?」
お、俺に聞くの!?聞く相手間違ってない!?
なんで俺に聞くんだろ…、もっと他にアドバイスくれそうな人いてるだろ…!?
慌てふためきなにか言葉を探すも、いい言葉は見つからなくて。
「…なんつってな!最近のツナ頼もしいし、…あの華鈴とも仲良さげだし、ついな。」
「えっ、華鈴さん?」
「ああ。…ほら、なかなか男子と喋れないやつだろ?
なのに、ツナには少し気を許してそうっていうか。」
そう言う山本の言葉が一つ一つ、重みを感じるようだった。
で、でも、そうなのかな、気を許してくれてるのかな…、華鈴さん。
「ま、まあ、オレってこんなだし、話しやすいのかな…?でもホント、たまに喋るくらいだよ!!」
「や、それってすげーよ、やっぱ注目株だな!」
「そ、そんなことないよ!山本だってそのうち話してくれるようになるって!大事なのは…、き、キッカケだと思うし!
野球だってそうじゃない?もっと努力したら吹っ切れる、よ…」
あわてて、その場しのぎな調子に乗った言葉を口にする。
すると山本は少しびっくりしたように目を開いて、またいつものようにニカッと笑った。
「…だよな!
いや、オレもそーじゃねーかなーって思ってたんだ!
さすがツナ、気が合うねぇ!」
「そ、そうかな…?」
お、オレなんかのアドバイスであの山本が元気になったー!!
なんか、すごいことした気分!!
その後、二人でトンボ掛けを終わらせて、山本は自主練しに行くと走っていった。
家に帰ったらリボーンが山本をファミリーにするとかわけのわかんないことを言ってたけど、スルーした。
その日俺は一日上機嫌だった。
…次の日、あんな事が起こるまでは。
21page 無意識の罪
(ただ、頼られたことが嬉しくて。)
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