第一章〜友情の足枷〜

18page 見えるのは希望か、絶望か







気づいたら、教室から遠くはなれた別館のあの屋上にいた。
華鈴と最後に話した場所…、そして、後悔の場所。

微かに聞こえた華鈴の楽しそうな声、会話の内容までは聞こえなかったけど…、誰もいない教室に2人で話してた。

そして見たんだ、あいつが笑ってる所を。

みんなからダメツナって呼ばれてる沢田、そんなに2人が話してる姿は見たことねぇのに、俺の方が絶対に話しかけに行ってたし、仲良くなろうって思ってた。

なのに、沢田はいとも簡単に、俺の見たかった笑顔を、一番欲しかった場所を…。








「くそっ…!」







ガンッッ



思わず、扉を殴りつける。
拳が少し赤くなったが気にしてられない。

どうしたら俺の事を見てくれる?
どうしたらお前を縛ってるもんが軽くなる?
どうしたらお前に、笑ってもらえる…?

俺は欲張りなのか…?
ただ、普通に話したいだけだった。
他のクラスメイトと同じように、笑って話し合える関係でいたいだけだった。

俺がダメで、沢田が大丈夫な理由は?
なんで沢田は良いんだよ…!







「ははは…、やっべー…、俺、自分が思ってた以上に華鈴のこと好きだったんだな。」








心の中に黒いモヤが渦巻いている。
ここんとここのモヤが邪魔して部活に全く身が入らねぇ。
野球しか取得のない俺が、あんなに好きだった野球が、全くできなくなっている。

このままじゃ俺、ほんとにやべーのな。










「…好きだ、華鈴。」









あの時、伝えられなかった思いを空に向かって吐き出す。
今言ったところで、何かが変わるわけじゃ無いのにな…。



大きくため息を吐いて、屋上から出る時…




ゾクッッ





後ろから刺されたような気配に身体が強ばる。

振り向いたけど、そこには誰もいなくて、ただ向かいの校舎と空が広がるだけ。









「疲れてんのかな、俺。」









ハハッとかわいた笑いをこぼして、教室へと向かった。






────────────────────









誰もいなくなった、別館の屋上。
貯水タンクのその裏で、僕はトンファーを構えたまま固まらざるを得なかった。

何故なら、目の前の黒いスーツを着込んだ赤ん坊に、僕が発した以上の殺気と銃口を突きつけられているからだ。








「ワォ…、僕の邪魔をするなんて君…、何者だい?」

「今はまだ名乗る時じゃねぇ…、だが、山本は今ここで殺られるわけにはいかねぇんでな。」









ニヤリと歳不相応のニヒルな笑みを浮かべる赤ん坊に、背筋がゾクゾクとするのが分かる。

久しぶりの強敵だ…、心が踊る。

けど、今はそれどころじゃない。
屋上で昼寝をしていたら、一番目障りな草食動物が一番耳障りな言葉を発したのを咬み殺せなかったのが腹立たしい。

あの、山本武とかいう草食動物…、懲りもせずまだ唯を好きだなんて言葉を口にして、ただで生かせると思わないでよね。









「君とあの草食動物の関係性なんて興味無いよ…、奴はいずれ僕が咬み殺す。」

「させねぇぞ。アイツはツナのファミリーになる男だからな。」

「ファミリー…?群れるやつは咬み殺すまでさ、そのツナとか言う奴もね。」








ただの赤ん坊だと思いきや、一片の隙も見当たらない…。
それはそれで楽しいけれど、この持て余した感情をどうしてくれよう?

唯は今日、この学校に来ているはずだ…。
そして、教室にいるだろう。
あの山本武も教室に向かったはずだ…、唯には散々身体に教え込んでやったけど、山本武はまた無粋な笑顔を浮かべて唯に近寄る…、汚らわしい好意を持ってだ…!!!!

想像するだけて殺意が膨らむ、急激に膨らんだ殺意に少し怯んだ赤ん坊。

その隙をついて、距離をとる。









「オメー、雲雀恭哉って言ったな。
山本と正当に闘える場を俺が設けてやる…、だからそれまで手を出すな。」

「僕がそれを聞き入れて、何のメリットが?」








これまでに無いくらいの殺気を放たれ、背筋を駆け抜ける。

この僕が震えるだなんて…、初めてだよ。

相手に気取られないようにしつつも、踏み込むチャンスを伺っていた。










「オメーが気になってる、獄寺隼人の編入の件…、関わってるのは俺だ。」

「…!!!!!」








獄寺隼人。

その名前が赤ん坊の口から出て、合点がいった。
こんなに凄いやつがバックにいたのか…、そりゃ僕に従順な校長たちも気づかないはずさ。










「お前の欲しい情報は、俺がすべて持っている、山本に勝てたらその情報を全て提示しよう。」











また、ニヤリとニヒルな笑みを浮かべる赤ん坊。

面白い、取引をしようというのか。
僕が欲しい情報を、全て…。
まさかコイツが、あの時唯を…?
いや、裏で糸を引いていたイタリアンマフィアか?
とてもそうは見えないけれどね…。

けど、いいだろう。









「必ず勝つさ…、この時を何年も待っていたんだからね。」









やっと、やっと唯に傷をつけたヤツらに報復ができる。
何年待ち続けただろうか…、この日が来ることを。

そのためならば、少しくらい待ってやろうじゃないか。








「いいだろう、その条件…飲んであげるよ。」

「話のわかるやつで助かった…、んじゃ、日取りは追って知らせる。
それまでに手を出したら、情報は渡せねぇからそのつもりでいろよ。」









また後日、そう言い残して赤ん坊は屋上から姿を消した。












18page 見えるのは希望か、絶望か






(はぁ…、どんな顔して会えばいいんだろうな)(待たせたぶん楽しませてよね、山本武…)


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