第一章〜友情の足枷〜
13page 不審者を捕捉
「珍しいですね恭哉さん…、華鈴を家に置いてくるだなんて。」
静かな応接間で書類整理をする草壁は、視線を少し僕に向けてそう言った。
確かに、今までの僕からは想像もつかない事だろう。
並盛ならいくらでも僕の駒がいる、何があっても唯に近付く草食動物をすぐに咬み殺せる。
だけど今日は、
「…不味いんだよ、今日は。」
見つめる先は唯のいない教室。
いつも座っている唯の席は今日空いている、僕が休ませているからだ。
そのすぐ隣に座っている新顔…。
「…獄寺隼人、」
寄りにもよって素行の悪そうな転入生が唯のクラスに編入だなんて…、しかも僕にギリギリまで気付かれずに。
校長を問い詰めれば訳の分からない返事が返ってくるし、気分が悪いよ…。
「ヒッ…!?で、ですが確かに、こ、この転入生のクラス分けを雲雀様が確認されたと、こちらに、さ、サインが…!!」
ピラリ、
校長に渡された書類に今一度目を通す。
イタリアからの帰国子女、獄寺隼人…、それと無い学校名などが書かれてはあるが、これらの情報はどうせ宛にならないだろう。
けれど、問題はそこじゃない。
クラス分けの欄に、紛れもなく僕の字でサインがされていた。
けど、そんな書類に目を通したつもりもないし、草壁もそんな報告は受けていないと言っていた。
ほかの風紀委員が何かしらのミスをしたとしても、こんな書類に僕が気づかないワケがないし、ここまで僕の字に似せてサインできるような有能なやつは居ないはずだ。
「…どこの馬の骨かは知らないけれど、この僕を欺いてまでそのクラスに編入したかった理由を、暴き出さないとね。」
しかも座る席は唯の隣だ…、昨日さんざん虐めてあげた後の唯と会わせるわけにはいかない。
ただでさえ、目障りな山本武がいるというのに…!!!
グシャッ
「ああ本当に…、目障りな奴らだよ。」
獄寺隼人自体にそこまでの力があるとは思えない、何か、アイツの裏で動いている力があるはずだ。
もし…、もしあの時、仕留め損ねたやつだとしたら、
「…咬み殺す、」
自分でもびっくりするくらいの殺気を放てば、草壁はピクリと肩を揺らし、ドア前に立っていた風紀委員は腰を抜かしていた。
そして、素行の悪そうな銀髪がこちらを振り向いた…
「ワォ…、気づいたんだ。」
思わず胸が高鳴る、唯をめちゃくちゃにしたヤツをやっと咬み殺せるのかもしれないと思うとこんなに嬉しいことはあるだろうか?
それと同時に腹の底から名前の付け難い黒いモノがこみ上げてくるのがわかる。
だが今日は様子見だ…、1日中ずっと監視しておいてやる…。
「フフ…、期待を裏切らないでよね?」
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(この僕の学校から逃げられるだなんて思わないでよね。)
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