序章〜愛の首輪〜

8page それはまるで蜜のよう


シャワールームに入ったきり唯が出てこない。
帰るなり、草壁は少し焦り気味に僕に伝えてきた。
メイドに様子を見に行かせ、学ランを脱いだ僕は着流しに着替え離れへと向かった。

今日は、少しいじめすぎたかな?
学校での事を思い出すと思わず口元に笑みが浮かぶ。

うるんだ瞳、震える手足、紅がよく映える白い肌…。
そんな唯を見れるのはこの僕だけ、その辺の草食動物や、あの山本武では知る術すら無いのだ…、これが笑わずしていられるだろうか?

きっと身体につけた"痕"の痛みに震えながらシャワーに打たれ、それでもその身を洗おうと更に痛みに喘ぎながらシャワールームに突っ伏す唯を想像するだけでゾクゾクする…。

少し早足になるのが分かる。
シャワールームに入った僕を見て、唯はきっとカタカタと震えて、声にならない声で喘ぐように言葉を紡ごうとするんだろうね。
そして僕の顔を見て唯はまた怯えた瞳で僕だけを見て、思考を僕だけでいっぱいにして、僕を、僕だけを映すんだ…。

僕をそれほどに思っていいのは唯だけだし、僕をそれくらい見つめていいのは唯だけ、そう、唯だけなのに…、




ガァンッッ



思わず、トンファーで柱を抉った。

ここ最近、山本武とか言う草食動物が唯にまとわりついている。
授業が終われば直ぐに唯の席へと足を運び、話しかけようとする。
唯は僕との約束を守ろうと必死に沈黙を貫いているようだが…、目障りだ。

ただでさえ忌々しい"あの目"が居るのに、これ以上唯を他の奴の前に晒すのが嫌だった。
僕の、僕だけの唯でいいんだ、唯だって僕だけでいいはずだ、僕だって唯だけでいい…。

こんなにも唯だけを思えるのは僕だけだろう?
こんなにも唯を愛せるのも僕だけだろう?

なのに、ああ、なのに…!!!!



僕の怒りの沸点が頂点に達しそうな時、様子を見に来ていたメイドが立ち尽くしていた。



「あ、ああ、恭哉様、唯様が血を流して…」



カタカタと震え指を指す先にはすりガラス越しに赤く見えた。



ガラリ、


シャワールームの扉を開けると、僕の視界にはシャワーの水で薄められた血だまりの中に倒れる唯の姿。




「ワォ…、何をしているのかな唯?」



まだ傷が癒えていない腕を掴みあげると、痛みに顔を歪める唯。
鼻血が出たのだろう、鼻の下から血が滴った跡がある。
気を失っているのか、痛みに顔を歪めはするが起きる気配はない。



「手のかかる…。」



ビショビショに濡れた唯を抱えると、立ち尽くすだけのメイドを睨みつけた。



「何しているの?早く着替えとタオルを持っておいでよ、咬み殺されたいの?」

「は、はい!只今!!」




バタバタとシャワールームから駆け出していくメイド。

気の利かないグズはクビだな。



羽織っていたうち掛けを唯に羽織らせ、顔に付いた血を舐めとる。




「ああ…、唯の血はやっぱり甘くて美味しいね…」



思わずため息が漏れ、顔についているだけでは足らず、まだ塞がっていない傷に歯を立てた。






8page それはまるで蜜のよう



(これじゃまるで、吸血鬼だね)




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