序章〜愛の首輪〜
2page こっちを向いてよ
クラスに1人、変わった子がいる。
今の時代、珍しい膝丈のスカートで、大きくて分厚いメガネをしていて、前髪が長くて表情がわかりにくい。
女子に対しては割とフツーなのに、男子が話しかけるとスッゲービクビクして…。
男子が怖いっていうより、もっと別のなにかに怯えてるような。
まあ、キニナル理由はそれだけじゃねーけど、今日も朝の挨拶から始めてみる。
「はよー!華鈴ー!今日も真面目そーな格好してんのなー!」
「…っ!!!」
正面からちゃんと挨拶。
後ろからだと、余計に怖がらせちまいそうだから。
今日も華鈴の前に座る蝶原にちょっかいかけられてて、困ったように、それでも楽しそうに笑う華鈴の笑顔が、少しでもこっちに向けてくれたらと…思うのだが。
「(…やっぱダメか。)」
今日も、俺を一ミリたりとも見ようとせず、俯いて怯える華鈴。
…何が、そこまでお前を怯えさせるんだよ。
「あー、山本じゃーん、おはよー!」
「おう!蝶原もはよー!」
「"も"ってなんだよ、"も"って!…って、華鈴さん?」
華鈴の異変に気づいた蝶原が、気遣いながらフォローを入れる。
「あー、華鈴さん男の人苦手だっけ?」
「あちゃー、毎日声かけてるのになー、まだ慣れてくれないかー。」
ちょっと、おちゃらけたように言ってみるけど、華鈴さんの震えが止まることは無かった。
下を向いたままぽそぽそと謝罪の言葉をいう声が聞こえる。
…ただ、ただ俺は、あの時見た笑顔が見たいだけなのになー。
ふと、思い出すのは帰り道、夕焼け色に染まる渡り廊下でのこと。
俺は部活が終わって友達と一緒に帰ろうとしてた、そんな時ふと上を向いたら、そこに華鈴はいた。
いつものメガネは外して、夕焼けに見とれてこぼれる笑顔の、綺麗な華鈴。
あの時の笑顔が、忘れられなくて。
キーンコーンカーンコーン…
そんな思いを遮るように、チャイムがなる。
「お、じゃーなー!華鈴!また後で!」
担任が来る前に席につく。
でも、今日はまだ始まったばかりだ。
まだまだ、チャンスは沢山ある。
そう、思いを馳せながら俺はけだるいHRをやり過ごした。
…華鈴の思いなんて、知りもしないで。
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(この気持ちって、恋っていうんだろうか?)
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