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キミは、覚えているだろうか?
まだ幼き日に別れた、私の事を。
手元にある手配書の束にもう一度視線を落とし、パラパラと捲っていく。
ある一枚にたどり着くと、私は捲る手をピタリと止め、成長した"彼"の姿に目を細めた…。
「…随分と、変わったわね。」
「へ?何か言いましたかユイさん?」
ポツリと漏らした言葉に、私の部下がいち早く食いつく。
彼女はアリーシャ、自由気儘で私以外の上司の言葉なんて聞きやしない問題児だ。
腕は良いが私以外の言うことを全く聞かない困った子。
「…何でもないわ、作業の邪魔して、悪いわね。」
「いえ、大丈夫ですー!」
にへらと笑い、また書類に目を通し始めたアリーシャ。
私はアリーシャにバレぬよう、"彼"の手配書を羽織りの内ポケットに押し込んだ。
「(…懸賞金、8000万、か。)」
あの泣き虫小僧が、と、私は心の中で小さく笑う。
何時も誰かと喧嘩してはたんこぶや擦り傷を作り、泣いて私の所へ来たもんだ。
その理由が、私がバカにされていて腹がたったと言うのが殆どでそれがまた愛しかった。
一つ年下で、泣き虫な癖にいつも誰かと喧嘩して…、私にベッタリだった。
「(今の彼が、今の私を見たらどう思うのだろうか…?)」
ふっと過った考えに、私は怖くなった。
…彼に、嫌われてしまうかもしれないから。
「…ロー、」
懐かしい、幼馴染みの名前を小さく小さく呼んでみる。
けど、アナタはもう、振り向いてはくれないのでしょうね。
「ユーヴィリア大佐!海賊船らしき船を発見しました!」
「そう、解ったわ。
おいでアリーシャ、仕事よ。」
「来たきたーっ!っし!あっばれるぞー!」
…私は海軍、しかも大佐の称号を持つ者。
私のターゲットになった海賊たちは、ことごとく牢屋にぶちこんでやった。
ついた異名は"死の黒猫"。
私を見た海賊は、誰も逃れられやしない…。
「…で、何処の海賊なの?」
「ハッ!
ノースブルー出身の"ハートの一味"だそうです!」
「…そう。」
…私たちが歩む先は、幼い頃のあの日から、全く別の道を選んでしまったのね。
「…行くわよ、私の縄張りで、好き勝手させないわ。」
「さっすがユイさん!縄張り荒らされて怒るとか猫みたい!」
「…アリーシャ、喉笛を引っ掛かれたいの?」
「ひゃーっ!怖いこわーい!」
おちゃらけるアリーシャを連れ、私は愛刀たちを手にする。
…私は海軍、アナタは海賊。
…何で、こうなったのかしらね?
ねえ、ロー?
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